『超福祉展』を主催する須藤シンジが描く 「“心のバリア”をクリエイティブに破壊する」ということ
要さんとは、「長い付き合い、かつ、お互いにラフな関係」と笑う須藤さん。ピープルデザイン研究所は、今年で8年目を迎える。改めて要さんが活動趣旨を問うと、「インクルーシブ、ダイバーシティの実現に向かう中で、なかなかそれができない理由があるとすれば、“心のバリア”なのではないかと。その心のバリアを、ピープルデザイン研究所はクリエイティブに、ワクワクドキドキしながら壊していく活動をしています」
須藤さんは、次男が脳性まひで出生したことにより、37歳の時、14年間勤務した大手流通系企業を退職する。人生のターニングポイントだったと振り返る。
「重度の脳性麻痺という障害者手帳2級を手にした父親として、「この子は一生歩けないんだろうか」という不安を抱えながら、サラリーマンとして仕事に没頭する……現実から逃げていたところもあったと思います。たまたま家にいたとき、ハイハイもできなかった2歳になる次男が、温風ヒーターの縁に捕まってグッと立ち上がったんです。その瞬間を目撃して……大げさかもしれないけど、『これこそが生きてる意味なのかな』って痛感しました。それを最優先するために、後先考えずに独立したんですよね」
2015年から、従来の枠に収まらないアイデアから生まれたクールな福祉機器やテクノロジーを紹介する『超福祉展』を主催している須藤さんだが、そういった経験がなければ「福祉に対する関心はなかった」と微苦笑する。
「『超福祉展』では、障害者が使用する乗り物やアイテム、あるいはサービス、そういったものを“かわいそうなもの”ではなく“かっこいいもの”として、“隠す”のではなく、むしろ“見せていく”ものとして――。来場した人たちの意識を変えれるように心がけています」
今年8月に発刊された『ピープルデザイン: 超福祉 インクルーシブ社会の実現に向けたアイデアと実践の記録』では、これまで須藤さんが手掛けてきた福祉へのアプローチや思いが綴られている。世界の潮流として、ダイバーシティやSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれているが、「そこはまた難しい問題だよね。貧困と分断という勢いも可視化している。綺麗事や耳障りのいいことだけではない過酷な現実も、想像以上に世界でも日本でも顕在化していると思います。『こういう風にしたほうがいいんじゃないか』という具体策を我々市民レベルから伝えていくことが大事だと思う」
だからこそ、異なる岸辺に立つ者同士が交わったり、体験したりすることの大切が問われている。