緊急通販や単行本、パン販売も…コロナ禍で奮闘する『ビッグイシュー日本版』佐野未来【インタビュー】

ボブを追悼した『ビッグイシュー日本版』389号を手に語る佐野さん
 近年、路上生活者そのものは減っているように見えます。

「東京都の路上生活者数は現在889人(厚生労働省、20年1月)で、一番多かった6731人(04年8月)に比べると減った一方、2017年に東京都が都内のネットカフェやサウナ等の利用者を対象に調査を行ったところ、約4000人が住居がない状態との推計が出ました。2007年の調査(厚労省)では全国で約4700人でしたので、ホームレス状態の人は実は減っていないのでは、と感じています」

 コロナ禍で路上販売にも影響が?

「昨年の緊急事態宣言時は売り上げが全体で4割減、新宿など半分以下という販売場所もありました。急きょ『コロナ緊急3カ月通信販売』を立ち上げて参加を募り、販売者の収入分にあたる金額を分配しました。第1次(同年4~5月)では約9000人の方が応募してくださって、毎月5万円の販売継続協力金や販売応援グッズなどを配布できました。現在は第4次(今年1~3月)を募集中です。緊急事態宣言が再発出された今回も、通販でお買い求めいただければありがたいです」

 そのほかに新たな取り組みは?

「書籍『ボブが遺してくれた最高のギフト』(元ビッグイシュー販売者である著者ジェームズと野良猫ボブの交流を描いたシリーズ最新刊)を出版する辰巳出版からのお声がけで、限定750冊を卸してもらって路上で販売しました。ボブは残念ながら昨年6月に亡くなりましたが、ビッグイシューの表紙になるたびにすごく売れるんです。本体価格1600円(800円が販売者の収入)の書籍があっという間に売れて、2週間くらいで500冊がなくなりそうになったので、追加で250冊卸していただきました。ボブのファンはもちろん、ポスターを見た猫好きの方が『何の本ですか?』と声をかけてくださって販売につながることもあったようです。

 料理家の枝元なほみさんと一緒に『夜のパン屋さん』という取り組みも始めました。都内のパン屋さんで閉店時に残っているパンを引き取らせてもらい、神楽坂の書店『かもめブックス』の軒先で販売しています(木・金・土、19時30分〜)。販売者の新たな仕事づくりと同時に、丁寧に作ったパンをきちんと預かって最後まで売り切る取り組みが今後広がるといいなと思っています」
  
(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)

ビッグイシュー販売者「いくちゃん」に聞く路上販売の今


 新宿の西口京王百貨店前で『ビッグイシュー日本版』を販売するいくちゃん。週に平均5〜6日は路上に立ち、1日に30冊以上を売り上げるというカリスマ販売員のいくちゃんだが、このコロナ禍で「今の売り上げは1日20冊いくかどうか。(取材時の)12月はもっと人が多いんだけどね」と語る。感染対策にも気を遣うと思うが「(昨年の)4月は怖かったけれど、今は麻痺してきました」と正直に答えてくれた。

 書籍『ボブが遺してくれた最高のギフト』も販売しており「ビッグイシューのボブの号の実績があったので売れると思って5冊仕入れ、2日間で完売した後も『ありますか?』と聞かれるので、改めて10冊仕入れました。やっぱり動物と子どもには勝てないよね」と笑顔に。

 販売者として「飽きないように、毎日だから疲れないように」を心がける彼は、コロナ困窮者の住宅確保応援プロジェクト「おうちプロジェクト」を利用し、約10年ぶりにアパートを借りた。まず3カ月間、販売者を続けながら入居したうえで仕事を探し、自立を目指す。