徳井健太の菩薩目線 第91回 報道、バラエティ……プロのカメラマンの異次元さ。アクシデントも微動だにしない。
2月13日23時頃、自宅にいると、突然大きな揺れに襲われた。
震源地を調べると、福島県沖。宮城県と福島県で最大震度6強を観測したという。有為無常。まもなく10年が経とうとしているけど、たった10年だ。
しばらくして、ミヤギテレビ報道フロアで、地震が発生するやすぐにカメラを回し始めたカメラマンが話題になった。普通であればあたふたしてしまう。でも、カメラマンは部署内が激しく揺れる中で、その様子を記録に収めようと全力を尽くしていた。その姿に感嘆した。
そう、カメラマンはすごいのだ。
『(株)世界衝撃映像社』のロケでインドへ行った際、俺はラクダレースなるものに参加した。レース中、俺は落下して怪我を負う。結構な衝撃で落下したにもかかわらず、ディレクター以下、カメラマンは微動だに動かなかった。「大丈夫か」と声をかけるでもなく、一心不乱に撮り続ける様子に、俺は妙な高ぶりを覚えて、痛みを忘れ、嬉しさを感じていた。同番組はバラエティだ。面白い画を撮るために、各々がプロの仕事をしている。非情な世界と思われるかもしれないけど、プロ根性に気持ちが高揚した。そんな世界に、まかりなりにも自分もいるんだなって。
インドの病院で診察を受けると、「1~2本肋骨にひびが入ってますね」と診断された。高ぶりで痛みが和らいでいたからなのか、数日も経つと、妙に痛みを感じるようになった。帰国後も引かず、改めて都内の病院を訪れると、ひびどころか結構な数のあばらが折れていたことが発覚した。インドってスゲーんです。
よく出川(哲朗)さんが、「面白いVTRで死にたい」と口にしている。俺もそう思いたい。どうせ死んでいるんだから、面白いのであれば――、そのままカメラに収めてほしい。俺が望んでいるんだから、ラクダから落ちたときのように微動だにせず、撮り続けてほしいのだ。こういう信頼の形があったっていいじゃないか。
もちろん、カメラマン全員がそうである必要はない。バラエティと非バラエティの違いもあるし、同じバラエティであったとしても、きちんと撮ってくれるカメラマンとそうとは限らないカメラマンもいる。これは、どの仕事にも言えることだ。できる人と、できない人がいる。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』では、リハもやらない、本番ズドン、台本通りにもやらない、どこでボケるかわからない……生の緊張感の中で、コントをしていたという。うまく撮れてないと、次の収録からそのカメラマンは外されたそうだ。全員が、果たし合いのような緊張感の中で仕事をする。修羅場を知っている、伝統が連綿と受け継がれているカメラマン軍団は、恐ろしいほどの仕事ぶりを発揮する。
例えば、平場で俺が「●●はおかしい」と攻撃的なアクションをとった場合、カメラマンは俺を撮るのが普通だろう。ところが、連携が取れてるカメラマン軍団は、加害者側である俺を撮る人がいる一方で、被害者である●●も撮ることを忘れない。編隊飛行のような美しい統制がとれている。事前にカメラマン同士が打ち合わせをしていていることもあるだろうけど、どこが面白いポイントで、どこを押さえるべきか、各カメラマンが感覚的に分かっていないと、良い画は抑えられない。長年の経験、そしてその人自身のバラエティ理解度が高くなければできないこと。
想像してほしい。さんまさんの『お笑い向上委員会』には、たくさんの芸人が出演する。その中で、誰をどう撮るかというのは、もはやカメラマンのセンスとしか言いようがない。カメラマン自身にもディレクター的な感覚がなければ成立しない。映画の世界に、撮影監督というポジションがあるのも納得だ。
ましてや、『(株)世界衝撃映像社』のときは、世界各国の部族を撮影しに行く。部族が何をし始めるかなんて、全く予想できない。俺と吉村が必死に喋っている横で、いきなり部族メシを作り出すかもしれない。俺と吉村のやり取りが面白かったとしても、部族メシの方が面白いとなれば、カメラマンは部族を撮るだろう。「どっちが画として面白いか」。その一瞬一瞬の判断力を持っていることが、プロと呼ばれる要因の一つなんだろうなと、俺は思う。その判断に、俺たちも臨機応変に乗っかる。そうやって面白いものというのは、作られていく。
テレビを見ていると、あまり目立たないかもしれないけど、カメラマンの技術は凄まじいものがあるんだよね。敬意と親しみを込めて、「カメラマンさん」と呼びたくなる。ここでは敬称を省かせていただいた。ご理解願いたし。
できることなら半年に1回くらい、裏方の技術さんの凄さがわかる特番があってもいいんじゃないか、なんて思う。俺は、かじりついて見る。プロの奥深さを伝える意味でも、非常に意味があると思うのだけれど。ミヤギテレビ報道フロア、バラエティ、その他さまざまな畑に、きっと鉄人カメラマンがいるはずなんだ。そんな人たちの仕事を見れたら、気持ちが良いくらい背筋が伸びるんだろうな。
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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