徳井健太の菩薩目線 第92回 新宿、渋谷、池袋、横浜……駅構内を複雑かつ不親切にするのは、人を不愉快にさせるため?
どうしてターミナル駅は、構内が不親切なんだろう。
去る2月16日、下北沢のB&Bで『エンタメパンチライン』というオンライン配信イベントを行った。約20名しかチケットを購入しなかったという伝説のイベントである。かつて、AKBの初演も観客が7人だったというから、伝説だと思い込むしかない。20という数字に愕然とした。
その当日。B&Bのある下北沢へ向かうため、新宿駅を利用した。いつもの癖でJRの改札口から入ると、しばらくして小田急線に乗らなければいけないことを思い出した。慌ててJRの構内から数百メートル離れた小田急線の改札に向かってsuicaをかざすと、「ピポーン」というけたたましい音とともにゲートが閉まった。「ん?」。理解に苦しむ俺は、発走前の競走馬のようにパニック寸前のアドレナリンが爆発しそうになった。
小田急改札のすぐ近くにあるJRの窓口へ行って説明をすると、「入ったところに戻ってもらって、そこから入り直してください」と告げられた。なるほど。俺は急いでいたので、「そうだったんですね。じゃあ、ここから出してくれませんか?」とお願いした。ところが、「あ、それが無理なので、入ったところに戻っていただきたいんです」とお決まりのオウムのような返しをいただいた。
まったく意味がわからなかった。suicaの履歴を見れば、キセルをしていないことはわかるはず。なぜ数百メートルも戻って、ふりだしからやり直さなければならないのだろう。ここは同じ新宿駅のはず。小田急の改札は目の前にあるというのに。
驚いたことに、ここから出るには、「入場料(130円)がかかる」という。俺には、「どうしても出たいなら」というニュアンスに聞こえた。ターミナル駅の構内が複雑なのは、こういったぼったくりまがいのことをするためなんだ、と思った。ATMの手数料と同じ理解不能のシステム。でも、急いでいた俺は、仕方なくぼったくられることを選んだ。
小田急線に揺られていると、ふつふつと怒りがわいてきた。わかりづらくしているのは駅側の都合であって、利用者がリクエストしたわけじゃない。新宿も渋谷も池袋も横浜も、どうしてあんなにわかりづらいんだろう。渋谷の新南口なんて、もはや渋谷駅じゃない。渋谷新南駅に改称していただきたい。明治通り側から桜丘側へも通り抜けすることもできないし、誰があんな不自然な設計にしたのか……。すべてはぼったくるため。そう考えると妙に腑に落ちた。いや、落ちない。俺の怒りは、代々木上原を過ぎてもなお、ぐつぐつと煮えかえっていた。
それに比べて、東京メトロの菩薩のような心のありがたいこと。例えば、大江戸線に乗るつもりが、間違えて丸の内線に乗ってしまった場合、「すみません、大江戸線に乗りたかったのに間違えてしまいました」と説明すれば、リセットしてくれる。「あ、でも入場料はいただきますね」なんて悪しき商慣習はない。
駅員からすれば、俺たちは100万分の1。でも、俺たちからすれば1日1回か2回の乗車。ラーメン店に入って、「毎日ラーメンを作っているんで、今日だけは手を抜かせてください」なんてことは言われない。その日、食べに来た人にとっては、一年に一回かもしれない。万が一、そんなことがあったら二度と来ることはない。ところが、JRのターミナル駅へ、二度と行かないなんてことはできない。毎日利用せざるをえないシステムの上に成り立っている殿様商売、ゆえの怠慢。だったらせめて、もっとシンプルな駅構内にしていただきたい。
新宿駅の西口は、どういう意図であの構造にしているんだろうか。海底神殿みたいな地下部分。そこから地上へと続く階段が点綴しているものの、上がった先はだいたい離れ小島のようなバス乗り場。それらの海底階段を敬遠すると、高確率で百貨店へと迷い込む。それも違うと、汗だくだくになりながらやっとのことでたどり着いた先に、なぜかユニクロ。なぜ地上に出るのが、こんなにややこしいのか。あの周辺にたむろしているホームレスたちは、お金がなくて、家がなくてああなったんじゃない。西口から何十年間も出れなくなって、その間に服はボロボロに、髪も伸び切ってしまったんだと思う。
すべての駅を、高円寺のような改札口にしてほしい。改札は一つ。改札を出ると、北口と南口が一目で認識できるようにする。大きな街であっても、立川のように二つの改札口が向き合っていて、すぐに方角が理解できるような街もある。上京して22年。いまだに東京のターミナル駅は、いろいろと理解できない。
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
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