時短営業を乗り越えてーーウィズコロナの2021年、ライブハウスとクラブのいま
夜営業が当たり前だった概念を壊して新規事業を展開
動員を限られ、経営困難に陥ったのはライブハウスだけではない。クラブにとってもまた、2020年は厳しい1年だった。通常深夜まで営業する店が多く、早い時間の人入りが少ない場所も多かったクラブ。昼間の時間を活かそうと、おもしろい試みをするクラブも現れた。
渋谷のクラブ「ATOM TOKYO」は、株式会社いいオフィスと提携して、1月から昼帯にコワーキングスペースとしての営業を始めた。クラブのコワーキング化は全国でも稀な事例だったという。
「いいオフィスでは、フランチャイズ形式で国内外にコワーキングスペースを展開しています。この1年間で急速に店舗数を増やしてきた中で、カフェや空いているオフィススペースなど、さまざまなタイプの店舗がありますが、音楽系施設のコワーキング化はATOMがはじめての事例でした。クラブは夜のカルチャーとしての色が濃いですが、ATOMやクラブカルチャーを知らない人でも足が運べるように、ラグジュアリーな内装を活かしながら、快適に働ける環境はしっかり整えました」
店内はコワーキングの時間帯でも、クラブらしいダンスミュージックが小さめの音量でかけられていたり、プロジェクターにMVが流れていたりとATOMらしさはしっかり残っている。
「渋谷という立地の良さもありますが、実際にご利用いただいた方からは概ね好評をいただいています。中にはもともとATOMに通っていた方もいて、他のコワーキングにはない豪華な内装や音楽の雰囲気で、むしろ仕事効率が上がったという声も。クラブには来たことがなかったという方も多いですが、非日常的な空間でワクワクしながら仕事ができるといった声もいただいています」
クラブ営業時はVIP席となるソファー席も利用できる。19時以降はクラブとしての営業がスタートするので、入場料を払い直せば仕事後にそのままクラブタイムを楽しむこともできるという。クラブとコワーキングスペースという、想像がつきづらい2つの事業の融合だったが、予想以上の評判を得ているという。
現場でしか生まれない熱狂を、また楽しみたい
新しい生活様式に合わせて、音楽の現場も多様性が生まれている。音楽の現場で働く多くの人々が、この苦難を乗り越えるべく今も努力しているからだ。2021年も、ウィズコロナの生活様式が続いていくだろう。ライブハウスもクラブも、配信ライブを行って人々が家でも音楽を楽しめるような工夫をなしてきたが、やはり現場でしか生まれない熱狂があることも確かで、その日常を取り戻すべく、戦っている人々がいた。
取材した2店も他事業を展開しながら、感染対策を完備して通常営業にも力を入れていく予定だという。生で音楽を聞く感動を楽しめる日も、きっとすぐそこだ。
(取材と文・ミクニシオリ)