【インタビュー】上田慎一郎 × 神木隆之介 映画『100日間生きたワニ』100日後のその先へ

神木隆之介

映画化へ向けて試行錯誤。実写化案も!

 実は、本作の脚本を執筆中、コロナ禍を受け、大きく書き替えたという。

上田「書き始めてすぐ、コロナが本格的になってきたことで“日常の中で死を意識することで今が変わる”という、もともと考えていたテーマが響きづらい環境になったと感じました。つまり、コロナの影響で非日常の世界が当たり前になってしまった。原作の持つテーマも描きつつ、その先も描く必要があると感じ、ほぼ後半丸ごとオリジナルストーリーを書き加えたんです」

“ワニが死ぬまで”の100日と、その後の物語が語られることで、タイトルも新たに『100日間生きたワニ』となり、ワニが“生きた日々”が、よりいとおしく迫る映画となった。しかしそこにたどり着くまで、さまざまな試行錯誤があった様子。一時は、実写版も検討したとか。

上田「一番最初、実写でという案もあったんです(笑)」

神木「実写化って…『荒川アンダー ザ ブリッジ』みたいな感じでですか?」

上田「いや(笑)、『100ワニ』の世界を現実に置き換えて、登場人物もみんな人間で。でも登場人物がワニやネズミであることで記号性を持つというか、誰もが自分を重ねやすくなると思い、やっぱりアニメーションにしようと」

神木「被り物と特殊メイクでワニを演じるのも面白かったかも(笑)。でも確かに、キャラが動物だから自分と重ねやすいというのは、そうですね。人間同士だから共感できる部分もあるけど共感できない部分も出てくる、同じ人間だから、互いに“個”として見てしまうけど、ワニならその個性が平たくなるというか。自分の友達でこういうヤツいるとか、こういう関係性あるよねと、自分自身に重ねやすくなります」

 一方、ジブリ作品や大ヒット作『君の名は。』などアニメーション映画での経験も豊富な神木だが、ワニ役というキャスティングに驚いた人も多いはず。

上田「『君の名は。』の瀧くんもそうだけど、神木さんは本当に代表作多いですからね。だから逆にイメージが固定されていない。広い意味で主人公像を体現できる役者さん」

神木「『100日後にワニになる瀧』みたいな(笑)。僕自身も、あのワニ役? とビックリしました。ワニの声のイメージもまったく無くて、イメージがついてないからこそ、自分で作りすぎてもいけないだろうし、僕だからこそできる表現も出せればいいなとは思っていたんですが…そういえばなぜ僕にお話頂いたのか、監督にお伺いしたいです(笑)」

上田「僕とふくだの2人とも最初に思い付いたのが神木さんだったんです。直感でしたね。僕らも名前を上げてから、なぜ神木さんだと思ったんだろうと考えてみて、ワニの持つ純真さとかまっすぐさとか、素朴さといったものに神木さんがぴったりだと感じたんだと思います。何より神木さんって、失いたくない存在というか、失った時の喪失感が大きいという気がしたんです」

神木「うれしいです(笑)」

 あのワニたちの日常が映像で語られることで、ワニの生きた日々が、より臨場感を持って伝わる。

神木「アニメーションになったところを見た時は、この子たちこんなにかわいいんだ!とキュンキュンしました(笑)。漫画のときは、リアルタイムで1日ずつ更新されていくという面白さがありましたが、映画では、ワニはこんな人たちに囲まれてこんなふうに生きていたんだよと、何も起こらない日常ではありますけど、それが映像として改めて描かれることで、漫画のときとはまた違う喪失感を感じていました…ワニは自分なんですけど(笑)。アフレコの収録が終わったときも、もうあの現場に行かないんだよな、という喪失感もあったのですが、それだけじゃなくて、日常からワニが消えて、ふと感じる喪失感がありました。“いなくなっちゃった!”とハッとする気づきの喪失感ではなくて、何か足りないな、本当にいないのかな、という感覚。それが、ネズミや先輩、他のキャラとともにどんどん強くわいてくるんです」

上田「実は、漫画にあったカウントダウンをどうするか、すごく悩みました。かなり初期のころ、例えば“ワニが死ぬまであと60分”と画面にずっと出しておく…という案もありました。でも、そういうことじゃないよな、と。原作の面白さの1つが、1日ずつカウントダウンしていくというリアルタイム性で、それを映画に無理やり入れても上手くいかない。そういうことではなく映画でしかできない面白さを出していこうと考えました。僕自身、死ぬまでを見つめるというより、生きている時間を見つめてほしかったのかもしれません」