「青春の勘違い」【36歳のLOVE&SEX】#10
先日久しぶりに辞めた後輩・Aに会った。
私より何年か後に新卒で入社したAは、一時期同じ部署でもあり仲良くしていたのだが、数年前に退職した。その後はフリーランスとなり、もともとやりたかった仕事をしている。
私が他の会社を経験したことがないので比較ができないのだが、以前は同じ部署のメンバーで飲みに行くことも多く、コロナが流行する前はAもいた当時の部署で集まることも年に一度くらいはあった。
辞めたメンバーで集まったときの話題はだいたい、「今あいつはどうしてる」とか「会社には誰が残ってるのか」とかの話になり、噂話みたいなことをよく話すのだが、新卒同士だとだいたい辛かった入社当時の話がメインになる。
以前LOVELYPOPの綱島さんにインタビューしたときにも、入社当時の会社行事のことで話が盛り上がり、しかもその出来事を通じて勉強したことが今仕事をする上での大きな指針になっていたりもするので、私たち新卒にとっては思い出話以上の大切なものだ。
Aとの話題ももちろん新卒入社当時の話になり、あの頃の会社はこうだったとか、こんなことがつらかったとかカルチャーショックだったとか、いまだにそんな話で盛り上がってしまった。
寝れない、休めない、ただガムシャラに働く(正確には業務外のことが多く働くという表現が正しいかは不明だが)、そんな当時の思い出は、私たちSODの新卒入社社員にとっては「青春」そのものだった。
こうして15年も同じ会社にいると当然、まわりの顔ぶれは変わってくる。
入社当時16人いた私の同期は今や私ともう一人だけだが、いるだけでもすごいことだ。
先輩も後輩もほとんど辞め、たまに同じ業界にいる人もいるが、ほとんどが一般業界にいるし、公務員になった人もいれば専業主婦をしている人もいる。なんでSODにいたのかわからないほど出世している人もいたりする。
それでも、再会すると新卒だったあの頃に戻るから不思議だ。
そのくらいにあの時間は青春だったし、濃密だった。
ただ、最近はそんな昔の話をすればするほど、自分の現在地点がわからなくなる。
彼らが言っている「青春」に私はまだどっぷりつかっている、というと聞こえがいいのだが、彼らがいう「青春」は私にとっては「現実」と地続きで、だからこそ彼らの「青春」に100%共感できないという違和感が、年々強まってきている。
これはもう4年ほど前になるが、新卒入社のSという女性がいた。
Sはよくいる新卒社員という感じで、会社からの指示に一生懸命、がむしゃらに対応し、少し抜けたところがあり先輩からもかわいがられる子だった。
そんなSが急に会社に来なくなった。
私はSとは同じ部署だった時期があり、思い入れのある後輩だったので、もう一度出社してほしかったが、Sはそのまま退職した。
同じ部署だった頃、細かい注意や厳しい指導をしてしまったという自覚はあるが、それらは愛情の裏返しだったつもりだった。でも彼女にとっては、私のような存在はただの負担だったのだろう。いや、負担というよりもただのウザイ人でしかなかったかもしれない。辞めてから上司づてに「田口さんには会いたくない」と言っていると聞いた。
自分の中で、新卒はこうあるべき、とか、新卒の時代だからこそ多少無理をしても経験を積むべきとか、彼女にも自分と同じ青春を体験してほしかったという気持ちもあった。
完全に余計なお世話だった。
Sは辞めたあと、大手企業に転職し、新しい彼氏ができて結婚予定だそうだ。
あの頃感じた矛盾も不条理も、青春などではなかった。本当は、向き合わなければいけない目の前の現実だった。
青春だと思っていた時間を一緒に過ごした人たちもそれぞれ別の道を歩み、少しずつずれた私たちの人生はもう交わることはない。
いったい、私は今、人生のどの地点にいるのだろうか?
営業、マーケティング等の部署を経て、2013年に女性向けアダルトサイト「GIRL’S CH」を立ち上げ。以来、GIRL’S CHの現場リーダーとして、サイト運営・企画・広報に携わる。
現在は新規事業の立ち上げを担当。