酷暑の国立競技場でみんなが 携帯扇風機を使ったらどうなるのか? 気になるか気にならないかはあなた次第!?
東京都議会議員選挙で「東京オリンピックの中止」を掲げた共産党が議席を増やし、「無観客開催」を訴えた都民ファーストの会が戦前の予想を大きく上回る議席を獲得し、都議会第2党に踏みとどまった。よもやこの期に至って中止ということはないだろうが、五輪開催までは山あり谷あり…と思った矢先、7月7日に東京の新型コロナウイルスの新規感染者数が一気に920人に跳ね上がり、8日には政府が分科会を開き、東京都に4回目となる緊急事態宣言を12日から発令する方針を専門家に示し、了承された。
今回の東京オリンピック・パラリンピックでは昨今の新型コロナウイルスの感染拡大状況を鑑み、各会場の観客数については「収容人員の50%以内で1万人」とすることを東京2020組織委員会が6月23日に発表した。
これは6月16日に政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の解除後1カ月程度の経過措置として挙げた、大規模イベントの開催基準と合わせたものだった。
その後、7月1日には菅義偉首相が緊急事態宣言を再発令した場合には「無観客もあり得る」と語ったが、「決定は五者協議」とも付け加えられるなど五輪の観客問題は相変わらずの玉虫色で、全く先が読めない展開となっていた。
そんな中ではあるが、興味深い実験結果が理化学研究所から7月6日に発表された。
同所が行った「飛沫拡散シミュレーション」によると、国立競技場に観客1万人を収容した場合の新型コロナウイルス感染リスクについて、適切な感染対策を取るなどすれば、新規感染者を1人未満に抑えられることが分かったというのだ。
これはスーパーコンピューター「富岳」による分析で、最もリスクが高まるケースでも4.7人だった。しかしこのシミュレーションは観客席に座った状態に限ったもので、会場内での移動や、観戦前後の人流増加に伴う感染リスクについては評価していない。
シミュレーションは観客1万人の中に10人の感染者がいる想定で、1階席に4時間滞在し、全員がマスクを着用して終始前向きで会話をすると仮定。その上で、座り方が「密に着席」と「前後左右に空席あり」、風向きが「後方から」と「前方から」の計4パターンを分析した。
空席を設け、後方から毎秒0.7メートルの風が吹く場合は最もリスクが低く、1万人あたりの新規感染者数は「ゼロに近い」(理研)。同じ条件で座席を密にすると、0.08人に増える。
一方、風向きが前方からに変わると、リスクがさらに高まる。間隔を空けて座り、前方から同0.3メートルの風が吹く場合は0.23人。同じ条件下の密状態では最もリスクが高く、4.7人となることが判明した。
この数字を見て、どう評価するかはそれぞれの立場による。このシミュレーションを指示した文部科学省の萩生田光一文科相は6日の閣議後記者会見で「国立競技場に限っては、感染を抑えられることが科学的に証明できた」と述べる一方、「人が集まるので、その前後で人流が発生する」とのコメントを残した。
そもそも感染については「人流」が問題とされ、組織委も観客には「直行直帰」を呼び掛けている。またこれまで行われているスポーツの大規模イベントでクラスターが発生したという話は出ておらず、「1万人に1人未満」という数字については「なるほど」くらいの感想かもしれない。
ただここで気になるのは、携帯扇風機による風の流れはどうなるのかということ。これまで国内で行われてきたイベントの会場はほとんど冷房が完備されており、携帯扇風機を使う人はまれだったのだが、新国立競技場には冷房はない。席によっては直射日光を浴びざるを得ないところもあり、もともと熱中症対策についての必要性が叫ばれてきた。その対策の一つとして多くの観客が携帯扇風機を持参することが予想されるのだが、この場合、使用者の後ろにいる人への感染リスクはどうなるのか? ちなみに携帯扇風機の風の強さは毎秒0.3メートルよりははるかに強い。
この問題は今回のオリンピックが無観客で行われるかどうかに関わらず、国立競技場でのイベント開催の折にはちょっと気になるところではある。