「みんな、覚悟はできているのか?」豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈前編〉
豊田利晃監督・脚本、窪塚洋介主演による新作映画『全員切腹』が、ユーロスーペース(東京・渋谷)ほかで公開中だ。この作品の製作が発表されたのは、おそらく監督すらも公開時の東京が緊急事態宣言下などとは想像もしていなかったであろう、今年3月のこと。“憎悪の連鎖を断ち切り、憎悪にさらされた人たちに勇気を持たせたい”、そう決意した監督は、自らサイトを立ち上げてクラウドファンディングで製作資金を募り、劇場で体感するべき大胆かつ繊細な26分の映画を完成させた。窪塚洋介演じる浪人・雷漢吉右衛門の切腹シーンは鬼気迫る演技と称するにふさわしいが、その実、紡がれる言葉は誰よりも人間らしく、それゆえに鋭い刃のようにひとつひとつが見る者に突き刺さる。8月14日、初日舞台挨拶直後の豊田利晃監督と主演の窪塚洋介に、今、この世の中に本作を放った “覚悟”を語ってもらった。
豊田「いろいろな世界で、生き方の美学を問われないような世の中になったと思う。“どのように生きるか”を、みんなにも自分自身にも問いたい」
まずは、初日おめでとうございます。
豊田「終わった!」
窪塚「いやいや(笑)、“始まった!”でしょ」
豊田「始まった!(笑)」
昨年、同劇場で迎えた『破壊の日』の初日舞台挨拶と同じように、豊田監督の第一声は「映画館に映画を見にきてくれて、ありがとう」というものでした。
豊田「やっぱりコロナの(感染が拡大している)状況のなかで、映画館に行くことには負担があるような気がしていて。見てくれた人の反応はすごくいいけれど、まずそこまで人を運ぶところが難しい。これは今、全ての映画に言えることだと思いますが……」
窪塚「さっき(上映スケジュールを)見ていて思ったんですけど、全国順次公開でちょっとずつ公開日がズレているから、各所でだんだん狼煙が上がるような感覚というか。豊田さんの中にあった炎はまず俺らに燃え移って、それが(先行上映の)京都で燃え、いま東京で燃え始めて、その火がどんどん燃え移って大きな火になってくれる、そんな可能性に期待しています」
豊田「とはいえ映画は、この時代にこれを作ったということが残るので。来年、再来年になってもずっとこの映画は生き続けるんじゃないかと」
窪塚「最近“人間の歴史は疫病との歴史である”と知ったのですが、確かにそうだと思って。だからこそこの映画はどの時代に見ても新しい、普遍的な作品になりましたよね」
豊田「昨年『全員切腹』というタイトルを思いついたときは、まさか今年オリンピックを本当に開催してコロナがこんなに増えるとは思っていなかった。そういう中で公開してみると、誰もタイトルの意味を尋ねないんですよね。みんな分かっているから」
窪塚「うん」
豊田「でもいくら“その通りだろ?”っていう現実があるからといって、僕はこの国のトップやリーダーに向けて言っているだけじゃないので。切腹という侍の儀式を通して、それぞれの個人に向かって、“みんな覚悟はできてるのか?”と問うている。今は映画界もですが、いろいろな世界で、生き方の美学を問われないような世の中になったと思う。数字だけで、カネが儲かればいいとか、有名になればいいとかね。そうじゃなくて、僕は“どのように生きるか”についてを、みんなにも自分自身にも問いたいと思って作ったんです。そして、窪塚洋介にオファーした」