「みんな、覚悟はできているのか?」豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈前編〉

窪塚洋介(撮影・堀田真央人)

窪塚「俺の人となりを分かってくれている方が当て書きしてくれた台本って、こんなに覚えやすいんだなって」

 意外にも、豊田監督の映画に窪塚さんが主演するのは初めてなのですね。

窪塚「!! いま言われて気づきました」

豊田「20年前に窪塚主演で映画を撮ろうと思ってたけどそれがなくなってしまって、それ以来。主演作の『怪獣の教え』はライブシネマという舞台作品(2015年初演)だから」

窪塚「そうか。俺はいろいろな作品に呼んでいただけているので、豊田さんの怒りだったり、世の中に対してのメッセージを代弁してここまで来たっていう気持ちはすごくあるんですよね。いや、自分の気持ちにも寄り添っていることだから、代弁と言うよりも二人で発してきたような。『全員切腹』はその集大成だなと思っています。豊田さんが、京都での先行上映の舞台挨拶で“窪塚の代表作を撮ろうと思った”って言ってくださったのを聞いて、改めてこれが本当に自分の名刺がわりの映画になると思いました」

豊田「『怪獣の教え』で最後に長台詞があるのですが、今回それより長い台詞を作ってやろうと思って。なおかつ心に刺さるような、窪塚にしかできない脚本を書いて、送りました。断られたらどうしようかと思ったけど!」

窪塚「あんなね、“巻物”を家に送ってもらえたら断れないですよ」

豊田「“ご覚悟を!”」

窪塚「出演オファーが手書きの巻物で届いたんですけど、“全員切腹”って最後に書いてあって。“全員って、俺も死ぬの?”って。しかもスタッフとかも全員殺すつもりでいるのかなって。で、“窪塚、いつ会える?”って感じで、大阪まで来てくれて。喫茶店で話して即決した、というか……、“喜んで受けさせていただくので、スケジュールの調整だけお願いします”と伝えたら“(撮影期間は)1日だから、どっか行けるでしょ!”みたいな。そんなふうに言われたら……ねえ? “はい”って言うしかないし! 結果2日になりましたけど、本当に濃密な2日間でした」

 巻物のインパクトもさることながら、脚本を読んだ第一印象は?

窪塚「いやぁもう、すごいなって。これを俺にやらせてくれるんだって。ありがたいと思ったし、やってやろう!と気合が入りました。監督の想像を超えたものを見てほしくて。台詞は本当に長いんですけど、自分の言葉みたいなんですよ。時代設定は別として、本当に俺の人となりを分かってくれている方が当て書きしてくれた台本って、こんなに覚えやすいんだなって。すごい気持ちも入るし、楽しくやらせていただきました」

 セリフや役柄などをめぐって、喫茶店の打ち合わせでは活発に議論されたのですか?

豊田「これまで映画を作ってきて、激論を交わすというようなことはあまりないんですよね。今回は(役作りの指示なども)特にしていません。脚本読んで、もう分かってるでしょ?みたいな感じで、余計な言葉はいらなかった。そうやってみんなが覚悟を決めて力をこめられるものになったことが、この映画が作れた要因でもありますからね。ただもちろん、どうなれば良くなるかということは話します。たとえば僕が書いている台詞だから、語尾などは窪塚のいいようにやってほしい、と。そこに“こう直してほしい”とか“こういうのをここに入れたい”とか、窪塚のアイデアもたくさん入っています」

窪塚「変えていいと言ってくれていたから“これはどうでしょう?”と、細かいところを電話で共有させてもらって、“それは大丈夫”とか“それはいいよ”という感じで返事をいただいて共通認識にしていって。それでもう完璧に行ける!っていう状態で現場に入れたから、そういう意味ではめっちゃ落ち着いていたし、“あとはもう、死ぬだけ”というノリになっていたんで。ものすごい集中させてもらえました」