「のれんの向こう側」【36歳のLOVE&SEX】#17
今の事業に関わってから長いので、なんとなく私には「女性向けのひと」というイメージがあるかもしれないが、入社当時は男性向けAVを扱っていた。
大学を卒業してそのままソフト・オン・デマンドに入社したが、最初に配属されたのは営業部だった。といっても、実際に販売店に出向いて営業をするというようなことは最初の4ヶ月くらいしかやっておらず、その後は電話営業や営業事務など社内でできる業務を担当していたのだが、それでも自分の足でお店に行った経験は印象深く残っている。
ある時は先輩について日帰りで群馬県まで出向いて棚を作ったり、都内の人気店に行ったときは昼の時間にも関わらず「いまお客さんが多いから女性は入らないでくれ」と私だけ外で待っていたということもあった。ひたすら棚に並ぶAVの品番と数を数えては、会社に戻ってExcelに入力して在庫表を作りまくっていたのが、入社一年目の夏の思い出だ。
アダルト商材を取り扱うお店には、独特の雰囲気がある。
私が営業としてセル店(=DVD販売専門店)に行っていた時期は、女性向けのAVなどなかったし、AV女優さんがテレビに出たりすることもほとんどなかった。AV自体非常にアンダーグラウンドな世界だった。
セル店もそんなアンダーグラウンドな空気をまとっていて、秘密めいた、それでいてその奥にはギラギラとした宝物が待っている感じがする、人を惹きつける存在だった。お店に入ると、女優さんたちの美しい裸体や恍惚とした表情にあふれかえっており、DVDも販促品も各メーカーの「うちが一番面白い」「うちが一番ヌケる」という熱がこもっていて、ビビッドな色使いや面白い惹き句に目を奪われる。
そんな、妙な高揚感を感じる場所だった。
ただ、すごく場違いなところに来ているという感じも否めなかった。
まわりの男性からしたら、「なんで男だけの楽園に女が?」「買いにくいなぁ」と思っていたことだろう。目線からヒシヒシと伝わってくる。
18禁のれんの向こう側は男性たちだけの世界で、私たち女性が入ることは許されないのだ。
それから15年後、私は意外な場所で18禁ののれんを見ることになる。
それは、ラフォーレ原宿だった。
大学の頃友達が言っていた。「山手線の駅で2つだけ、ラブホテルが駅前にない駅がある。それが代々木と原宿だ」と。代々木は受験生の街、原宿はファッションの街、エロと結びつきが弱いはずのこの場所の、最先端の建物の中になぜか。
その答えは、irohaのPOP UPストアだ。
irohaはアダルトグッズからアパレルまで幅広く手掛けるTENGA社の、女性向けのプロダクトである。和菓子やメイク道具のような、一見してアダルトグッズだとわからないデザインで注目を浴び、今では女性向けアダルトグッズの定番商品のひとつとなっている。
以前このコラムで、ラフォーレ原宿にラブピースクラブの常設店がオープンしたということを書いたが( https://www.tokyoheadline.com/546337/ )このPOP UPストアもそれと同じフロアで8/20~9/5まで開催されていた。
ラブピースクラブのほうは普通の雑貨屋さんのような作りの、オープンな入りやすいお店だったので、irohaのPOP UPストアもそういうお店なのかと勝手にイメージしていたのだが、全く違った。
店頭にはデリケートゾーン専用ソープなど、誰でも使えるものが並んでいたが、その奥に真っ白なのれんがあったのだ。
irohaの商品はのれんの向こうだ…行きたい、けど、のれんの向こうに、入っていいのだろうか?
セル店での記憶がよぎった。
そんなときに、おしゃれな背の高い女性が、すっとのれんの向こうに入っていった。何の躊躇もなく。そうだ、ここはラフォーレ原宿なのだ。気を取り直して、私ものれんをくぐった。
のれんの中の空間は思っていたよりも広く、白を基調とした壁には、女性たちの「あなたにとってのセルフプレジャーとは?」に対する答えが並び、irohaに興味があるのは自分一人だけじゃないんだと勇気づけてくれる。
棚にはiroha全商品が並んでおり、手に取って触ることができる。irohaの商品は写真で見ただけでは使い方がわかりづらいものもあるので、操作方法や実際に使うイメージがわきやすかった。もちろん、独特のふわふわした触感を感じられることも店頭の醍醐味だ。
GIRL’S CHを担当していた頃、サイトでもirohaの取り扱いがあったので商品について知ってはいるものの、こうしてお店で見て選ぶことで、自分のために使うにあたって性能や価格を比較するという貴重な経験をすることができた。
もしかしたら1時間くらいその場にいたかもしれない。店員さんの意見も聞きつつ、実際に商品にも触れながら、今日は何を買って帰ろうかを楽しく真剣に選んだ。