「日本の俳優は“そんなことできない”と言わないの?」小野田少尉青年期役・遠藤雄弥がフランス人監督から聞かれたこと
言語はもちろん撮影スタイルから表現の感性まで、まったく異なる海外チームとの撮影だったが…。
「今回、すばらしい日本人通訳さんが付いてくださっていたおかげもあり、コミュニケーションはとても円滑でした。監督の演出についても違和感とか意図が分からないといったことはまったくなかったんです。今思えばすごく不思議ですよね。今回、僕も含め役者はみなアラリ監督に絶大な信頼を置いている印象でした。そもそも、アラリ監督が僕らに寄り添ってくれる。僕らが出すものをまずすべて受け止めてくださって、そこから一緒に議論していくという形をとってくださる監督だったんです。不安どころか、すごく甘やかしていただいたような気がします(笑)。青年期で部隊の仲間を演じた松浦祐也さん、井之脇海さん、カトウシンスケさんと僕の4人は、監督からいつもポジティブな言葉をいただいていました。あるとき、一緒に食事をしながら監督が“あなたたち4人の芝居をフランス人の俳優に見せてやりたいよ”って、冗談めかしつつ言ってましたね(笑)。他にも“遅刻はしないし、言われたことは何でもちゃんとやろうとするし…”って。監督は相当カルチャーショックだったみたいで、日本人の俳優さんは“こんなことできない”とかあまり言わないものなんですか?と真剣に聞いていましたね。やっぱり“その勤勉さをフランス人の俳優に伝えたいよ”って(笑)」
現場では、こんな熱く激しいディスカッションも…。
「実は撮影監督がトム・アラリといって、監督のお兄さんなんです。ときどき、トムさんが“もう1回撮りたい”と言うと、監督が“いや、芝居は今のが良かったからこれでいい”と言って、そこから兄弟ゲンカが始まるんです。それを僕らがぼーっと眺めながら終わるのを待っている、という“ケンカ待ち”が時々ありました(笑)。でもそれくらい信頼し合って映画を一緒に作れることが素敵だなと思いました」
現代のフランス人監督が大戦中の日本兵の心情に迫るというかつてない作品だが、アラリ監督はひたむきに、1人の人間の生きざまを映し出していく。
「印象的だったのは、監督が、よく映画やドラマに出てくる、いかにも戦時中の日本兵というようには演じないでほしいとおっしゃっていて、終始リアリティーに富んだニュアンスを求めておられたのが興味深かったです。僕もその言葉を聞いて、監督はこの映画を通して戦争を表現したいというより、1人の人間の生き方を伝えたいのかなと感じました。史実をモチーフにしたのは、その状況下になったときの人間を描きたいということだったんだと思います」
ジャングルで十数年、年を重ねた小野田を演じるのは実力派のベテラン俳優・津田寛治。
「津田さんとは、現場では完全に入れ違いで、僕の撮影が終わった後に“あとはよろしくお願いします”と挨拶させていただいたくらいで、役についてのすり合わせなどもまったくできませんでした。それなのに僕が演じた小野田青年と、津田さんが演じる小野田の間に何の違和感もなく、同一人物に見えたのでびっくりしました。あのままジャングルで生きてきたんだという時間経過が見えて、監督も津田さんもすごいなと思いましたね」
カンボジアの撮影では、遠藤ふくめキャストやスタッフたちが熱や嘔吐などの“洗礼”を受けたこともあったが「満身創痍でしたけど、終わってみれば最高の撮影でした」と充実の笑顔。
「ボロボロになって海外から帰ってきて、僕を癒してくれたのは…猫です(笑)。実はすごい猫好きで。スコティッシュフォールドを飼っているんですが、プライベートでは猫に癒され猫を癒すギブアンドテイクな生活を送っています。この映画を見た方は、狂気じみた僕の表情が印象に残ったと思うんですけど、本当は猫好きの穏やかな人間なんです(笑)」