日本で唯一!安全保障に関する国立学術研究機関、防衛省「防衛研究所」はどんな組織?【前編】

写真左より防衛研究所の庄司潤一郎研究幹事、中山泰秀防衛副大臣(肩書きは当時)、飯田将史米欧ロシア研究室長、庄司智孝アジア・アフリカ研究室長

 そうした研究内容をどのように政策に生かしていくのでしょうか。また、注目すべき取り組みは?

庄司智孝(以下、庄司智)「防衛省のシンクタンクとして、政策の一端に寄与するような形で活用されています。一例としては大臣、副大臣、政務官の政務3役にブリーフィングする機会をいただいたり、政策担当の方々と意見交換を行ったり、一定のテーマについて研究したものを論文の形にまとめて報告するといった活動です。また、インターネットなどで一般の方に安全保障に関する話題を分かりやすく啓発・啓蒙する広報活動も行なっています。防衛研究所ホームページの『NIDSコメンタリー』というコーナーで、国内外の安全保障をテーマにタイムリーな論評を発表しています。最近ではアフガニスタン紛争について、アメリカや中国、南アジアからの視点を交えて3本ほどの論評にまとめて掲載しました。発表時にはツイッターなどのSNSも活用していますし、今後はYouTubeなどを活用することも考えています。

 また、戦史に関する調査研究のほか、史料閲覧室にて一般の方に戦史史料の公開を行なっています。大正のスペイン風邪パンデミックなどの興味深い史料や、戦史史料がお好きな方がいらっしゃるので、ホームページでデジタル史料の展示なども随時掲載しています」

庄司潤「古いものですと幕末の戊辰戦争の戦史もありますし、一番多いのは太平洋戦争の史料になります。『戦史研究センター』の発足当初の任務は先の大戦についての戦史をまとめることでした。現在では戦史研究室、安全保障政策史研究室、国際紛争史研究室と史料室を包括し、広い意味での戦史研究を行っています」

庄司智「防衛研究所の教育課程というのは、幹部自衛官や幹部職員に対する課程なのですが、こちらでは海外からの留学生の教育も行っています。アメリカ、オーストラリア、インド、東南アジア諸国、欧州諸国、韓国などから受け入れており、そうした留学生の皆さんが将来各々の国で高官になると、非常に重要なネットワークが形成されます。そういう意味では、国家レベルでの交流活動の一端を担っているのではないかと自負しています。また、諸外国の安全保障や軍事、国防についての研究機関とも交流し、お互いの国で研究会なども活発に行なっています」

飯田「『防衛研究所に話を聞きに行きたい』という海外の研究者や政府関係者も非常に多く、コロナ禍の前は毎週のように海外からの来訪者がいらしていました。特に最近ではヨーロッパ圏の方が増えており、アジアの安全保障に対する関心が高まっていることを感じます。防衛研究所としてはこうした国際交流も、日本の現状認識を諸外国の方々に理解してもらえる点で重要な役割だと考えています」

 多様な研究内容を包括している防衛研究所ですが、どういった方たちが所属しているのでしょうか? また、海外にも類似する研究機関はあるのでしょうか?

庄司潤「防衛研究所には、陸・海・空の自衛官、事務官、教官というさまざまな出身母体の方が一堂に介して共同で働いており、こうした多様な人材はおそらく防衛省や自衛隊で唯一の機関ではないかと思います。教官の場合に限って申しますと、文系の大学院を修了している政治学、国際関係学、歴史学、政治外交史などを学んだ方で、20~30代半ばで採用されていることが多いですね。採用後は、さらに留学や在外研究などで学術的な研鑽を積み、よりよい研究者として成長していきます」

庄司智「海外では、現在の安全保障情勢について専門的に扱うシンクタンクと交流することが多いですね。世の中にはさまざまな種類のシンクタンクがありまして、特にアメリカではワシントンにシンクタンクが集中しています。ひとつの専門分野というよりも、幅広くさまざまなシンクタンクと交流していて、イギリス、フランスなどにも有名なシンクタンクがいくつかあります」

庄司潤「先だってドイツのGIDS(German Institue for Defense and Strategic Studies)という国防省のシンクタンクから、我々と交流したいという希望があって意見交換を行いました。今、中国の影響力が世界的にも拡大している中で、ロシアに加えて中国がもたらす安全保障上の諸課題を踏まえ、日本とコンタクトを取りたいという方向性がヨーロッパ全体にあるのだと思います」

 後編では、国民一人ひとりが安全保障について考える意義や、研究者から見た防衛研究所の魅力について聞く。

(9月27日取材)

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