国民一人ひとりが安全保障について考える意義とは?学術研究機関、防衛省「防衛研究所」で聞いた【後編】
防衛省のシンクタンクであり、国立の安全保障に関する学術研究機関でもある「防衛研究所」。後編では、私たちが「国防」について考える意義や今後の課題について中山泰秀防衛副大臣(肩書きは当時、以下同)と、防衛研究所の庄司潤一郎研究幹事、飯田将史米欧ロシア研究室長、庄司智孝アジア・アフリカ研究室長に話を聞いた。
戦後70年以上が経って戦争を直接体験した世代の方たちが減り、若い人は諸外国の戦争や紛争を自分のこととして捉えにくい状況だと思います。私たち一人ひとりが国防に興味を持つ意義を教えてください。
中山泰秀(以下、中山)「今日の我が国を取り巻く安全保障環境は、急速に厳しさと不確実性を増しています。こうした安全保障環境を考えますと、国民一人ひとりに我が国の防衛に関心を持っていただけるよう努力する必要があると考えています。状況は国によってさまざまですが、今現在、他国との戦闘状態にある国や、国内情勢が極めて不安定な国などがあります。こうした国々の若者にとって、国防力や安全保障は極めて身近な問題になっている、また、ならざるを得ない状況であると思います。
昨年来、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界中にあっという間に拡大し、尊い人命だけでなく、私たちからさまざまなものを奪い去ってしまいました。こういった状況ではありますが、このような混乱の最中に軍事情勢がどれだけ動いたのか、そこに対する目配りを忘れてはいけないと思います」
庄司智孝(以下、庄司智)「国防を自分に関係のない話だと考える方はいらっしゃるかもしれませんが、私たちの生活を成り立たせるために、国として経済活動を行うことは非常に大事です。経済というのは安全保障上、他の国と日本がどういう関係にあり、どういう問題があって、それをどうしようとしているのかが密接に関わっています。ですから、日本で経済活動をして、社会活動をして、生活していくということは、他国とどういう関係を保ちつつ、何か問題があればどう調整していくのかにつながっていると思います。
たとえば、日本は中国との間に難しい問題を抱えている一方で、経済関係は密接です。このふたつの矛盾する関係をどう調整するのかは、政治家の方々が考えることだと思いますが、私どものような研究者は、生活していくうえで重要な問題につながっているという意識を持っています。そうした意味でも世界のどの分野で、何が起こっているのかに気づいて、見て、考えていくことは非常に重要なことではないでしょうか」
中山「軍事を抜いた政治は、楽器を抜いた音楽だとも言いまして、政治家というのは安全保障について最初に考える職業です。戦争をするべきでないことは当然ですが、過去の歴史を見ると政治的判断の誤りから戦争が起こっています。そういった意味では戦争を回避するための努力が、過去の戦史からも見て取れるのです。結婚にたとえると、屋根の下にひとつの正義があるのではなく、屋根の下には夫と妻ふたつの正義があって、無理にひとつにしようとすると摩擦が起こります。摩擦係数を高めないためには、ふたつの正義をひとつの屋根の下に認め合うことです。そうした術を私たちは戦史から学ぶべきで、もしも正義をゴリ押ししようとするような事態があった場合、それに対してどのような史料を集め、どのようなアドバイスを送るのかは研究者のセンスで、そうした研究者の価値を国民の皆さんにも認識していただきたいと思います」