国民一人ひとりが安全保障について考える意義とは?学術研究機関、防衛省「防衛研究所」で聞いた【後編】

「他の研究者との対話や議論によって得られる知的刺激は他では得がたい魅力」と語る庄司智孝アジア・アフリカ研究室長

庄司智「研究所の中だけでも多岐にわたる専門分野があって、地域だけでもさまざまな地域研究を専門とする研究者が多数在籍していて非常に層が厚くなっています。中国、朝鮮半島、アメリカ、ロシアなど安全保障を重視した観点からの地域の集積があるのですが、ここまで研究者の層が厚いのは他の機関ではなかなかないことだと思います。幸いにもそうした環境に身を置くことで、さまざまな比較の視点が生まれ、思った以上に自分の研究にも役に立つと言いますか、非常に参考になっています。

 国内外の研究会や意見交換で、他の研究者との対話や議論によって得られる知的刺激は他では得がたいという印象を持っていて、そうしたことも含めて魅力的な研究所だと考えています」

飯田「何気ない仲間との会話の中にも学べるところがあります。たとえばQUAD(クアッド)やAUKUS(オーカス)といった安全保障を協議する枠組みが出てきていますが、防衛研究所にはすべてその国の研究者がいるので、各国の過去から現在、将来の安全保障を多面的に研究していくうえでのスタッフが揃っている組織だと思っています」

庄司潤「ミャンマー情勢ひとつをとっても、ミャンマーの専門家がいて、各国の専門家から中国、インド、アメリカの対東南アジア政策、さらに戦前・戦中のビルマ時代の日本とビルマとの歴史および歴史的に見たビルマの戦略的意味についての専門家もいます。単にミャンマーの地域研究だけではなく、より広さと深さの両面を持って情勢を見ることができるのが防衛研究所の強みです」

 防衛省、防衛研究所が今後取り組むべき課題などがあれば教えてください。

中山「研究者一人ひとりが、自らの専門領域に関する調査研究の実力を絶えず高めることが重要です。これは政策支援や国際交流を含め、防衛研究所のあらゆる活動の礎(いしずえ)となるものですので、内部部局などの機関とより一層連携を強化し、安全保障に関する政策支援を推進してもらいたいと思います。

 こうした防衛研究所の活動を対外的にも広く知っていただき、日本には国際的に評価されているブレーンがあることをもっと積極的に広報していきたいですね」

庄司潤「何事も基盤になるのは研究者の能力で、それがなければいくらいろいろな情報を発信しても浅薄なものになりますので、仕事の中で研究者の能力をいかに高めていくかが重要な課題です。また、今年8月に文部科学大臣から科学研究費助成事業の指定研究機関として認定を受け、防衛研究所の研究者が科学研究費に応募できるようになりました。防衛研究所の研究能力の向上に取り組むとともに、科学研究費の中でそれなりの安全保障研究が位置付けを得られたことは、重要なターニングポイントではないかと思います」

庄司智「研究者の醍醐味のひとつに共同研究があるのですが、科学研究費に応募できるようになると、外部の研究者と共同で研究プロジェクトに取り組みやすいというメリットがあります。私どもが研究機関としてより一層の研鑽を積んでいくためにも、非常によい機会に恵まれたと考えています」

飯田「研究者本人の能力が高くなければ、対外的に説得力のある議論を展開できないので、世の中の研究者すべてにとって自分を磨くことは第一の重要な課題です。そのうえで、防衛研究所はこれまで以上に対外的な発信力を高めていく必要があります。研究者一人ひとりの分析の結果『こういう物の見方がありますよ』というのを国民、あるいは諸外国の方々が比較検討できる材料を提供することが、シンクタンクとしての重要な役割なのだと思います」

 防衛研究所では「安全保障国際シンポジウム」「戦争史研究国際フォーラム」「ASEANワークショップ」といった一般向けのイベントを多数実施。各イベントの詳しい情報は「防衛研究所」ホームページにて随時公開している。

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