知っているようで知らないたばこの歴史を「たばこと塩の博物館」で聞いてみた
たばこ税の税率が引き上げられておよそ1カ月。そもそもたばこは食料品などの生活必需品と異なり、嗜好品という理由から国および地方において税金が課せられているが、いつどのように生まれ、なぜ世界中で嗜まれているのだろうか? この機会にたばこの成り立ちについて知るために、墨田区の「たばこと塩の博物館」でその歴史について聞いた。
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たばこはいつから人々にかかわっていたのか?
1974年のたばこ製造専売70周年を記念し、1978年に渋谷公園通り沿いに開館した「たばこと塩の博物館」。当時の日本専売公社(国の収益を目的として、たばこと塩の専売事業を行った公共企業体)により、多くの人にたばこと塩にまつわる歴史と文化を紹介するために設立された。館内設備の老朽化や収蔵品の増加などで2013年に一度閉館、2015年に墨田区のJT(日本たばこ産業)敷地内に移転してリニューアルオープンを果たす。同館の主任学芸員で、たばこ産業史を専門とする鎮目(しずめ)良文さんに案内してもらった。
3階の常設展示室「たばこの歴史と文化」に入ると、メキシコにあるマヤ文明古典期後期(600~900年)の都市遺跡「パレンケ遺跡」の「十字の神殿」が再現されている。神殿の石柱には、「たばこを吸う神」のレリーフが彫られ、これが人類とたばこのつながりを示す最古の資料だといわれる。また、現在喫煙用に栽培されている“葉たばこ”の起源、ナス科タバコ属の野生種「ニコチアナ・トメントシフォルミス」「ニコチアナ・シルベストリス」は南アメリカのアンデス山中で生まれたとされている。「たばこは古代アメリカ文明の中で、喫煙はもちろん儀式や治療などさまざまに利用されてきたことが発掘資料から見えてきます」と鎮目さん。
たばこ文化が世界中に知られるきっかけとなったのは大航海時代。コロンブスの西インド諸島到達により現地の人々のたばこ利用が発見され、アメリカ大陸からヨーロッパ、そして世界中にたばこが広がった。ちなみに日本には1500年代後半、キリスト教や鉄砲伝来などとともに伝わったとされる。その後、世界では1600年代後半から1700年代にかけ、それぞれの地域の風土や文化がたばこと結びつき、さまざまな利用方法や喫煙具が生まれた。
「たとえばオランダでは素焼きのクレーパイプ、ドイツだと木製パイプ、地中海沿岸ではメアシャム(海泡石)という鉱石を使ったパイプ。イギリスではホワイトヒースというツツジ科の灌木の根塊を利用したブライヤーパイプ、中央アジアでは水パイプ、スペインだと葉巻、フランスだと嗅ぎたばこ、アジアはキセル喫煙が見られます。中国の喫煙具は面白くて、さまざまな地域の文化が結びついた形で、水煙具もあれば嗅ぎたばこもあります」
日本人がいつから喫煙を始めたのかは分かっていないが、1601年に来日したフランシスコ会の修道士が、徳川家康と謁見した際にたばこを原料とした膏薬(油脂で練り固めた外用薬)と種子を献上したという記録が残っている。慶長年間(1596~1615年)の屏風絵には、“南蛮好み”と呼ばれる流行り物好きな人々が喫煙する様子が描かれるが、すんなり受け入れられたわけではなく、当時たばこに関する禁令が繰り返し発出されたという。「江戸時代、幕府の経済的な基盤は本百姓が納める年貢でしたので、たばこの喫煙や売買、栽培への禁令が繰り返し発出されました。それらが落ち着くのは1700年代に入ってからです」