夏休みは「生きた学問」を身につけるチャンス! 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第47回】
大学も夏休みシーズンに入りましたが、私の方は相変わらず東奔西走しております。その一つが、中高生、大学生たちが「生きた学問」を身につける場づくり。この8月2〜4日には、「OECD生徒国際イノベーションフォーラム2017」が開催され、会場の代々木オリンピックセンターには、世界9カ国から300人の高校生と教員が集結。少子高齢化、移民社会、環境問題など2030年に直面する世界的課題を見据えて、議論・交流しました。
この企画は、私が代表を務める「OECD日本イノベーション教育ネットワーク」が主催し、文科省や福島大学、教育やITなど各企業の協力を得て実現にこぎつけたものですが、もともとは東日本大震災後に私がOECDに提案して始まった、東北の中高生たちのプロジェクト学習「OECD東北スクール」が原点になります。2014年夏には、パリで集大成となるイベント「東北復興祭〈環WA〉in PARIS」を開催し、東北の魅力を世界に発信して15万人の来場者を集めるなど、世界的に注目されました。
今回の「イノベーションフォーラム」も、かつてのパリと同じく生徒たちが自分たちで企画から実行まで主体的に運営。日本からは、震災復興やまちづくりを模索する東北の学生チームなど6つのクラスターが参加しました。私も開会挨拶に立ち、プレゼンテーションや、展示ブースでのポスターセッションをみたときには、その熱気に感銘を受けました。1、2日目の夕食後には交流会もあり、地域や国の枠、言葉の壁を超えた絆、見識を深めたことでしょう。
一方、フォーラムに先立つ8月1日は、広島へ飛びました。こちらは広島県東部の神石高原町(人口9400人、福山市の北隣)と、慶應SFCが地方創生に関する連携協力協定を結ぶことになり、その発表記者会見でした。
2カ月前の本コラムでも紹介しましたが、こちらはSFCが自治体とコラボレーションし、地方創生の研究・実践に励む大学院生なと゛の人材を、各地に送り出す「地域おこし研究員」の取り組みの一環です。神石高原町では、高校の統廃合による若者転出を抑制するための、地元高校の「魅力化」が重要プロジェクト。記者会見では、生徒たちがドローンの使い方をマスターして、災害や鳥獣被害対策を調べるといった構想が披露されていましたが、SFCで学んだ若者たちが地域の現場で、どういう実践をしていくのか非常に楽しみです。
実践の場を通じて、学問で学んだ知識が血肉となります。その積み重ねが「正解のない時代」を生き抜くスキルを高めます。この夏休み後半、学生の皆さんには「生きた学問」を身につける機会を得ていただきたいものです。
鈴木寛
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。
山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。
2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。
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