根木慎志「元気の源は“人”。出会った人 みんなと友達になるのがライフワーク」
TEAM2020 × CHALLENGED SPORTS
第1回 根木慎志 シドニーパラリンピック男子車椅子バスケットボール日本代表キャプテン
TEAM2020×CHALLENGED SPORTSとは、オリンピック・パラリンピック開催が決まった2020年に向けて障がい者スポーツにフォーカスし、さまざまな角度からその魅力を伝える企画。第一回目は、2000年のシドニーパラリンピックで、男子車椅子バスケットボール日本代表に選ばれ、キャプテンを務めた根木慎志がインタビューで登場。根木は現在、米国にて車椅子バスケットボールのコーチングを学び若手選手の育成を行うほか、日本パラリンピアンズ協会副会長、スポーツ庁審議委員などを務め、障がい者スポーツの発展に尽力。また、夢の実現、スポーツの素晴らしさ、障がい者と社会との関わりなどにつき、全国で講演会や車椅子体験会なども開催している。そんな根木がシドニーでの秘話や2020年、東京オリンピック、パラリンピックについて語る。
車椅子バスケットボールとの出会い
岡山で5歳まで過ごし、奈良に引っ越してから、小学校時代は柔道、中学時代は水泳、高校ではサッカーをやっていました。柔道と水泳ではそれなりの成績を残していましたが、高校3年生の時に事故をして、下半身不随になってしまった。生きているのが奇跡と言われるほどの大事故で、自分も両親も親類も泣くばかり。これから先、足が動かなくなってどうやって生きていこうって…。そんな時期に、のちのチームメイトが車椅子に乗って病室に来て、とにかく車椅子バスケのことをぶわーって熱く語るんです(笑)。それがね、あっけにとられながらも、すごく輝いて格好良かった。どうやら「18歳でいろいろスポーツやっていた子が入院したらしいぞ」って個人情報がダダ漏れだったみたい(笑)。で、最終的にチームの可愛いマネジャーが来て、車椅子バスケットボールを頑張ったら、タダで外国に行けると。そこで心が揺らいだんですけど、とどめに車椅子バスケットボールは無茶苦茶モテると。それで即、「分かりました。車椅子バスケやります」(笑)って。
念願のシドニーパラリンピック
20歳で退院して、車椅子バスケを始めて、日本代表でパラリンピックに行けたのが36歳。16年かかっているんです。最初はソウルで、その後バルセロナ、アトランタと続くんですが、いつも最終選考で落とされた。アトランタの時は自分もですが、周囲も絶対に行けるという雰囲気だったので、もう悔しくて、悔しくて。今考えると実力がなかっただけなんですが、コーチは恨むし、チームメイトは否定するし、オリンピック、パラリンピック自体意味がないって。だからテレビも見なかった。でもたまたまテレビをつけたら開会式の入場をやっていて、仲のいい選手がVサインしているのが映った。その時、涙が出て止まりませんでした。それは悔し涙じゃなくて、夢をかなえた人が輝いている感動の涙。車椅子バスケっていう素敵なものがあったからいろいろな経験ができ、出会いがあったのに、それを全否定していた自分。かたやずっと頑張って夢をかなえた人。それを見て、もう一度夢を見たいと思った。そして4年後は行くって決まったんです。自分の中で。
夢を叶えた大舞台
シドニーに行くと決まってからは、それまでの何倍も練習をしましたが、全然苦しくなかった。行くための準備をしているので、楽しくて仕方がない。それまでは選考会は周りがみんな敵だと思っていたけど、行くと決まっていると、この中の誰かとチームメイトになるんだと思える。すると今まで敵だと思っていた人と協力できるし、励ましあえる。それまでは代表に選ばれることがゴールになっていたけど、代表になって世界で戦うことが目標なので、合宿で競い合っているような人間なんて選ばれない。そんなふうに気持ちが切り替わったら、より先を目指したトレーニングができるし、なによりメンタルが大きく変わりました。最終的に代表になって、キャプテンにも選ばれましたけど、自分の中では決まっていたことなので、当然という気持ちでした。シドニーでは、もちろん勝つことが第一ですが、アトランタでVサインをしていた是友京介とVサインをするという夢もありまして(笑)。結果? バッチリVサインでテレビに映りました。無理やりカメラの前に出ていったので、お叱りは受けましたが(笑)。
選手&読者にメッセージを!
ちょうど今、リオの選考中とか、代表の内定が出るころだと思います。選ばれた選手には、しっかりと夢を持って信じてやり続けてほしい。リオの活躍が2020年の東京大会を盛り上げると思うので頑張って。自国でオリンピック・パラリンピックをやる機会はあまりないので、やる選手はもちろん、見て、支えてみんなが1つになって楽しめる大会になればいいと思います。僕はもともとスポーツが大好きで、できなくなって心が折れたこともあったし、これからもあると思う。でも元気になれたのもスポーツのおかげだし、個人競技であってもスポーツはチームで戦うものなので、絶対に一人じゃない。つらくてうつむき加減になると、どうしても周りが見えなくて自分ひとりの気分になるかもしれないけど、周りにはいっぱい人がいて、応援してくれていると思うとワクワクします。自分以外の所に目を向けることで素敵に生きていけると思うので、広い視野を持って物事を見てほしいと思います。