【江戸瓦版的落語案内 】干物箱(ひものばこ)
伊勢屋の若旦那、銀之助は大の遊び人。吉原の花魁にうつつを抜かし、毎日毎日遊び惚けている。さすがに堪忍袋の緒が切れた主人が、外出禁止令を出し、若旦那は謹慎中の身に。しかし毎日こう暑くっちゃたまらない。汗を流しに湯屋に出かけることだけは、なんとか許可してもらった。
久しぶりの外出にウキウキしながら湯屋に向かう。しかしふとあることを思い出し、湯屋とは反対方向に進むと、そこは貸本屋の善公の家。実はこの善公、声色が得意だと評判の男。「おい、善公。お前、俺の声色はできるか?」「いよっ!若旦那。もちろんでございます。この前なんか、亀清での宴会でお前さんの声色をやったら、お宅の親父さんがあなたが遊んでいると勘違いして、怒ったぐらいですから」と言う。
「そりゃ、好都合。実は俺がこれから吉原に行って花魁と遊んでいる間、家で俺の声色をして親父を安心させてほしいんだ」。一緒に遊びに行けると思った善公、残念がるも羽織一枚と小遣いをもらい引き受けることに。念のため、一緒に家に帰り外から善公が「お父っつあん、ただいま帰りました」「おお、今日は早く帰ってきたな。お帰り。早く寝なさいよ」。しめしめ、だまされた。銀次郎、安心して吉原に向かい、善公は玄関脇の梯子段を上り2階へ。「やれやれ、このまま何事もなく銀さんが帰ってきてくれればいいが…」
しかし、そううまくは運ばない。「おーい、銀次郎。銀次郎や」と階下から親父の声。「今朝方届いた干物は、何の干物だった?」「(えーーっ、そんなの聞いてないよ)えっと、お魚の干物です」「ばかやろう、魚に決まってるだろう。じゃ、それはどこにしまった?」「あの、あの…干物箱に」「なんだい、干物箱って。とにかくそのままだとネズミがうるさくて仕方ないから、下に持ってきておくれ」「それは…。無理です。えっと、イタタタタ。お腹が痛くて」とごまかすが、様子がおかしいと思った親父が2階に上がってきてしまった。
「やや、お前は善公。さてはせがれに頼まれたな」。その時、外から銀次郎の声が聞こえてきた。「善公、ちょっと窓を開けてくれ。実は財布を忘れちまって。引き出しの中に入っているから、そっと上から落としておくれ」。すると親父「この罰当たりめ。どこを歩いてやがる」その声を聞いた銀次郎「あはは、善公は器用だな。親父にそっくりだ」