映画『スキップ・トレース』監督 レニー・ハーリン「中国の映画作りには、“やってできないこと”はない」
ハリウッドでも人気のアクションスター、ジャッキー・チェンと『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』のレニー・ハーリン監督がタッグを組んだ話題作『スキップ・トレース』が公開中。ハーリン監督が語る、中国での仰天ロケとは!?
ジャッキーとの仕事は長年の夢だったとハーリン監督。
「ジャッキーとは過去に2度ほど一緒に仕事をするチャンスがあったんだけど実現しなくてね。そもそも僕はジャッキーの映画が大好きだったし、中国で映画を撮影するいい機会だと思ったので、この話を聞いたとき、ぜひ監督したいと思ったんだ。しかし、即興性が高いというかその場でどんどん変えていく香港の撮影スタイルは、僕がこれまでやってきた何カ月も前から緻密に計画を立てていくハリウッド方式とは真逆だからね。対照的な2つの撮影スタイルをどう融合させるか、という課題があった。実際には90%、僕のスタイルで撮影させてもらったよ。ジャッキーは現場のムードメーカーとして、すごく現場の雰囲気を良くしてくれるし、アイデアも豊富に持っている人だけど、監督である僕を常にリスペクトしてくれた。だから僕はハリウッド流に綿密に計画を立てつつも、ジャッキーのアイデアをいろいろと取り込ませてもらうことができた。しっかり計画を立てていたからこそ、現場で臨機応変に対応できたともいえると思う」
本作はジャッキー演じる香港の刑事ベニーが、ジョニー・ノックスヴィル演じる詐欺師コナーと奇妙なバディを組み、陰謀に立ち向かうアクションコメディー。次にどんなアクションが飛び出すのか分からないジャッキーのアクションよろしく、現場でも次々と新たなアイデアが飛び出したという。
「毎日のようにジャッキーから唐突にアイデアが出てくるんだ。“テーブルを投げ飛ばすのはどう?”“いや、それは無理だよ。アクション用のレプリカを作ってないし”。“じゃ椅子を投げるのは?”“そもそも椅子を作ってないし”。“窓から飛び降りるアクションはどう?”“それ用の安全装置を作ってないし”…って具合。僕も最初は、無理なモノは無理と答えていたんだけど、ジャッキーは引き下がらない(笑)。“でも今のアイデアを気に入ってくれたんでしょ?”とね。確かにいいアイデアだけど…と答えるとジャッキーは“じゃ、昼までに用意しておくよ”って。そして実際に、それらが現場に用意される(笑)。香港の現場は何でもやってのけてしまうんだ。ハリウッドで同じものを用意するとなったら数カ月間のプランニングだの会議だのが要るだろうね。
例えば、コナーを追ってきたベニーが、一緒にロシアン・マフィアに追いかけられるシーン。脚本ではベニーがコナーをタルに押し込んで転がして、坂の下まで転がったところでコナーをタルから引きずり出す、というものだった。ところが撮影前日になってジャッキーが言うんだ。“このシーンだけど、転がった先が工事現場になっていて、板の上に乗っかったらテコの原理で飛び上がって、建物の中に飛び込んじゃうっていうのはどう?”って(笑)。ジャッキーも英語がそこまで流暢というわけじゃないから(笑)、図解までして説明してくれて。僕は“いやいや、明日の朝に撮影するんだよ? それまでに割れるガラス、工事現場のセット、アクション用の装置、あとそのテコの原理で動く板ってのも作らないといけないんだよ?”と言ったんだけど、ジャッキーは“でも今のアイデア、気に入ったんでしょ?”。そして翌朝、現場に行ったら全部、用意されていたんだよ。ワイヤーもクレーンも割れるガラスも整えられていた。
そうなると僕もジャッキーに触発されて、いろんなアイデアが湧いてくる。“よし、転がりながら走ってくるトラックの下をすり抜けよう!”ってね。するとジャッキーは“そのアクションは無理だよ。事故るよ”。僕はもちろん“いや、大丈夫。ここは僕のやり方に任せてよ”と言って映像技術でそのシーンを作ったんだ(笑)。“old meets new”とでもいったところだね。ジャッキーは、どうしたらもっと観客を楽しませられるかということを常に考えている。現場でも僕ら2人が競争するかのようにアイデアを出し合っていたよ。
今回ジャッキーとの仕事で学んだのは、中国の映画作りのモットーは“やってできないことはない”ってこと(笑)。中国流に限界の文字は無いって知ったよ(笑)」
『ジャッカス』で鳴らしたジョニーも、どんどんパワーアップするアクションに、冷や汗ものだったかも?
世代や性別を超えて楽しめるアクション映画の名手でもあるハーリン監督。その原点とは。
「やはり母親の影響が大きいと思う。父が医者で忙しい人だったので、僕は5~6歳のころから母のデート相手として一緒に映画を見に行っていたんだ。僕の母はあらゆるジャンルの映画が好きで、とくにスリラーやアクションが好きだった。アクションといっても物語性のある作品を好んでいたね。そんな中で僕は“映画言語”を学び、10歳ごろから自分でも映画を作り始めるようになったんだ」
一口にアクション映画といっても、女性が敬遠するものもあれば『クリフハンガー』や本作のように、性別を超えて夢中になれるものもある。
「僕の作品をそう思ってもらえたらうれしいね。一つ裏話を教えよう(笑)。実は『クリフハンガー』の監督のオファーが来たとき、ただし主演はシルベスター・スタローンだよと言われて、当初、僕は彼じゃ嫌だと言ったんだ。『ランボー』よりメル・ギブソンとかハリソン・フォードがいいってね(笑)。あの主人公は、生身の人間を体現する役者でないといけなかった。でもスタジオはどうしてもスタローンでいくと言う。とりあえず2人でランチでも、と言うので、仕方ないからスタローンと会ったよ。そうしたらスタローンがすごい熱心に“この役をぜひやりたい!”と言ってくる。僕は“君のような不死身のヒーロータイプはちょっと違うんだよなあ…”と言ってみたけど、スタローンは“じゃあ、この映画にふさわいい主人公になるよ。君のやりたいように僕を演出してほしい。『ランボー』なんて飽き飽きだ”とまで言う。で、結局スタローンとやることになったので、僕は物語の冒頭を少し書き換えて、仲間の女性が谷に落ちてしまうシーンを作った。もともとは主人公が山でケガした鷲を助けるとか、そんな場面だったんだけど、僕は主人公を生身の人間として描くために、救うべき人を救えなかったという背景が必要だと思った。このヒーローっぽくない設定に、スタローンは最初のうち少し難色を示したけど(笑)、すぐに役になりきっていったよ」
数々のアクションスターたちと仕事をしてきた監督。ジャッキーとハリウッドの優れたアクションスターに共通点は?
「ジャッキーと一番近いのは、スタローンかな。ジャッキーと同じように豊富にアイデアを持っているし非常にクリエイティブだ。何より少年のようにワクワクしながら現場に取り組んでくれる。僕としてはそういう、作り手意識を持っている俳優が組みやすいし一緒にやっていて楽しいね。俳優の中には、かなり受け身で、アクションシーンは極力自分でやりたくないという人もいれば、すぐにトレーラーに引っ込んで何をやってるか分からない人もいる。でもジャッキーやスタローンのような人は、基本的にプロ意識が非常に高い。一番先に現場に来て最後に帰ったり、自分から他のスタッフを手助けしたり。自分が現場にいる時間は、常に作品をより良くするためのものであって、1分1秒も無駄にしたくない、という姿勢を感じる。アクション映画を作るなら、そういう俳優と一緒にやりたいね。そしてもちろん運動神経のいい人ね(笑)」
(本紙・秋吉布由子)
監督:レニー・ハーリン 出演:ジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル他/1時間47分/KADOKAWA配給/9月1日(金)よりTOHOシネマズ スカラ座・みゆき座他にて公開 http://skiptrace-movie.jp/
STORY:香港警察の刑事ベニー・チャンは香港犯罪界のドンと疑うヴィクター・ウォンを捜査中に同僚のヤンを失い、その娘サマンサを託される。9年後。ヴィクターを追い続けるベニーはサマンサをトラブルに巻き込んだアメリカ人詐欺師コナーがヴィクター逮捕のカギを握っていることを知る。
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