【徹底討論】東京五輪きっかけで変わる東京 そこまで必要? 「屋内全面禁煙化」

 東京が変化している。新しい施設が次々と姿を現したり、道路などインフラの整備もあちこちで行われていて、その多くが2020年の東京五輪を目指している。さまざまなルール改変も進行中で、たばこについても喫煙室以外での屋内全面禁煙化とさらに厳格なルールが導入されそうだ。国際的なルールにならうべきとの声も大きいが「みんなそうだから」でいいの? 喫煙者・非喫煙者に意見を交換してもらった。

肩身の狭いスモーカー

——屋内全面禁煙化の動きが出てきました。まもなく提出される法案が通過した場合、近いうちにこのような居酒屋でも一切喫煙できなくなる可能性があります。

ヒデキ:屋内全面禁煙になるのは困るな。そうなったら喫煙者は宅飲みになるでしょうし、お店側も客が減って困ると思うんです。というので、僕は反対ですね。
エリナ:私は喫煙者だけど賛成です。煙やにおいは、やっぱり気になります。だから食事のときは禁煙席、たばこを吸う時には喫煙席に移動しています。
ヨシヒロ:僕はたばこを吸いますけど、全面禁煙になってもいいですね。そうなったらなったでルールに従うし、困らないです。
ヨシト:僕もそう思いますね。そうなったらそれに合わせる。喫煙者も非喫煙者も同じなのかなあと。それと客が減って店が困るという考え方ですが、僕は食事しながらたばこが吸えなくなった分、食べたり飲んだりする量が増えて、客単価があがり、逆にお店にもうれしいことではないかと思います。
ミユ:私は吸わないけど反対です。今のままでいいです。
全員:えっ?
ミユ:旦那さんがたばこを吸います。食事に行って席を立たれたり、例えば何もないところで待たされるのが嫌。屋内全面禁煙になるとそれが増えそうで…。
マサキ:僕もそうですね。会食中にたばこを吸いに出ていかれると、寂しいというか、その時間がもったいない感じがしてしまいますね。
マリコ:私は賛成。たばこは嫌なんです。煙も、においも!
サキ:喫煙者も煙やにおいを嫌だと思う人は多いです。私は加熱式たばこを利用していますが煙やにおいは少ないので、たばこを吸わない人が一緒の時でも気が楽になりました。だから全面禁煙になっても、加熱式たばこはOKにしてほしい。大阪府知事はそういう動きをしてます。

——喫煙者も気を使っている、と。

エリナ:使いますね。私は喫煙者ですけど煙やにおいは気になります。だから、たばこの煙の行き先とか、気にします。
マリコ:気を使ってくれているのは分かりますね。喫煙者だけど自分の前では一切吸わないだとか、1日一緒にいても1本ぐらいしか吸わない、とか。

撮影・上岸卓史

五輪開催で「右にならえ」?

ヨシト:あの、屋内全面禁煙はどの観点で導入されようとしてるんでしょうか?
カツキ:訪日観光客、インバウンド対策ですよね。僕、外国にいたんですけど、海外では室内の喫煙が禁止って多いです。
ヒデキ:それは、バーでも?
カツキ:純粋に室内はダメ、外はどこでも、という感じですね。
サキ:ヨーロッパだと、街のごみ箱の上が灰皿になっていて、それが至る所にありますよね
エリナ:歩きたばこも多いですよね。
ミユ:海外で風船を持って歩いていたら、たばこが当たってパンッって割れちゃったこと、ありましたね。
カツキ:僕、思うんですけど、オリンピックも来るし外国もそうだし、だから日本も屋内は禁煙だっていうのはどうなんだろうって思うんです。路上の喫煙スペースが決まっている日本は、海外とは事情が違うと思います。

——非喫煙者の方に伺いたいんですが、昨今の喫煙マナーをどう思いますか?

ミユ:ポイ捨ても少なくなった気がしますし、歩きたばこは見なくなった。
マリコ:マナーは全体的にはよくなっていると感じます。それだけに、歩きたばこしてるのを目撃しちゃうと……怒りを覚えますね(笑)。

日本の「たばこ」との付き合い方

——訪日観光客のなかには日本のたばこマナーを評価する人もいるそうです。

カツキ:それもいいと思うんですけど、訪日観光客も、オリンピックに来る人もその時だけ。そのために何かを変えるって外ヅラをよくしているだけのように見える。それよりも、ずっと日本に暮らしている人のことを考えたほうがいいのかなって。
マサキ:マナーの良さがセールスポイントになるってことだと思うんです。それなら、今のスタイルを押し出していくっていうのもいいと思いませんか。
全員:拍手(笑)。

コリドー街

「禁煙ならもう来ない…」屋内全面禁煙化で困窮の飲食店

「お酒にはたばこ」。愛煙家のお決まりのフレーズを、世田谷のバー「若林ハウス」の岩城雄太さんは体感した。「最初禁煙でオープンしたんです。このあたりはたばこを吸わない人が多いのかなって。いざ始めてみると“吸えないの?”って(笑)。今は店内でもOKになっています」。

 喫煙室以外での屋内全面禁煙化の動きが加速するなかで、飲食店は困惑し頭を抱えている。

「常連のお客さんには禁煙になったらもう来ないと言う人もいます」というのは銀座一丁目の「和どころいちふじ」の田代充さん。「高級なレストランとか寿司店のカウンター、そこが禁煙なのは分かります。だけど、居酒屋もって? どんな店も全部一律禁煙化するのは反対」。店はカウンター中心のアットホームな雰囲気の居酒屋。食事やお酒を楽しみながらたばこに火をつけるお客さんも多い。スペース上分煙も難しいが苦情はないという。「たばこを吸う人がすごい気を使ってる。加熱式たばこの人も増えた」。

 喫煙OKの店で気を使って店の外に出る人も少なくない。敷地内に喫煙スペースがあればいいが、かなりの移動を強いられることも。例えば、さまざまな飲食店が軒を連ねるコリドー街。店を出てしまうと近くに喫煙所はない。「GINZA我歩」を運営する株式会社ジェイプロジェクトの中原哲也さんは「ルールが決まればそれに沿ってやっていくだけですけど、なかなか難しい」と困り顔。「喫煙室の設置も新しい店舗でならできますが、既存店では想定してお店を作っていません。ただ、禁煙化そのものは悪くないと思いますので、できることは協力したい。例えば、ランチの禁煙タイムを夜10時まで延長するとか。それなら、お店としてもやりやすいし、吸う人もそうでない人も時間を選べます」。

 屋内全面禁煙化の動きは、オリンピック開催を含め、訪日観光客への配慮が主な理由とされている。訪日観光客が飲食店での喫煙の様子を見て眉をひそめるといったエピソードも紹介されがちだ。居酒屋「いろり家東銀座本店・別邸」の高橋圭亮さんは「海外からのお客さまの中には“たばこが吸えますか?”って入ってきたり、居酒屋は吸える場所と知っているふうな方もいらっしゃいました。隣り合わせたお客さんに声をかけるマナーなども含めて、これって日本特有の居酒屋文化なんじゃないかなって思うんです。僕はそういうのをなくしたくない」

 喫煙する人もそうでない人も、みんな大切なお客さま。一緒に飲んだり食べたり楽しんでほしい——。取材に協力してくれた店は、みな口を揃えて言う。屋内完全禁煙化の導入には、ベストな方法を探ってさらなる議論が必要といえそうだ。

<新橋〜銀座の喫煙所状況> 港区(新橋駅周辺)は指定喫煙所以外、中央区(銀座エリア)は指定喫煙所や吸い殻入れのないところでは喫煙禁止。千代田区(有楽町駅周辺)は区内全域で路上喫煙禁止。新橋〜銀座エリアのスモーカーには厳しい状況だ。
屋内完全禁煙化はもっと柔軟に路上禁煙OKな欧米×制限の日本 
 同じ「屋内完全禁煙」といっても、国ごとに基準が大きく異なっている。自宅以外は禁煙、自宅であってもバルコニーでは禁煙とも読める厳格なルールを掲げるところもあれば、病院や学校、公共施設は禁止、文化施設、商業施設、レストラン、そしてバーなどにおいても喫煙禁止としているところもある。それぞれが自国における喫煙事情を鑑みて、自分の国になじむスタイルで取り入れているようだ。

 欧州をみると、イギリスではレストランやパブを含め公共の屋内は全面禁煙。フランスでは屋内完全禁煙化を導入しつつも、カフェではテラス席を喫煙席と設定するなど分煙化で対応している。ドイツやイタリア、オランダの飲食店施設では、店の規模、または喫煙スペースの条件を満たすことで、屋内でも喫煙が可能になっている。日本では、厚労省が受動喫煙防止対策として、飲食店の屋内原則禁煙(喫煙室の設置は可)、例外として小規模のバーやスナック等のみを喫煙可能とする案の成立を目指しているものの、非現実との声も多く議論が難航している。

 というのも、日本と海外では喫煙環境に大きな違いがあり、海外ではほとんどの国で屋外(路上)での喫煙が可能になっている。店内は禁煙でも外に出れば喫煙できる状況がある。例えばイギリスでは、路上に複数の灰皿が設置されていて、喫煙者はストレスなく喫煙できる場所を見つけられる。しかし喫煙ルールが厳しい日本に置き換えると、路上禁煙エリアの喫煙室のない店を利用した時、場合によってはひと駅分歩くような状況にもなりうる。屋内完全禁煙化を導入する国のなかで、日本はもっとも規制が厳しい国になりうる。

 日本の喫煙ルールは、エリアや条件の複雑さや細やかさ、マナーも含めると、世界のなかでも最も制限のあるもの。吸う人、吸わない人がうまくやるために作られた日本独自のルールをもっと世界にアピールする必要がありそうだ。