麿赤兒

大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演『ウイルス』

世界の舞台芸術の中でも異才を放つ、日本の"舞踏"。その中でも国際的評価の高い大駱駝艦を率いる舞踏家・麿赤兒(まろ あかじ)が、創立40周年公演作品を語る!
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撮影・宮上晃一

 今や海外でもよく知られている、日本の前衛的舞台芸術・舞踏。舞踏というと白塗り、剃髪、不思議な動きといった言葉で語られるが、ときとしてそこに"スペクタクル"が加わるのが大駱駝艦の舞台だ。しかし今回は"ウイルス"というミクロの世界がテーマだという。もはや、どんな舞台になるのか想像もつかない。そもそも麿当人が「どんな作品になるんでしょうねえ」と笑う。だが、その目は楽しげだ。 「そういうものをやるからには一応勉強しようと(笑)、科学の雑誌や文献を読んでいるんですけどね、これが面白いんですよ。ウイルスが生き物に対してどう作用するかなんて話を読むと、そこにものすごいドラマがあって。ときにホラーだったり、エロチックだったりね。自分の預かり知らぬところで、細菌だのウイルスだのが作用して、体にいろいろな変化が起こるわけだけど。ウイルスというと悪いモノというイメージだけど、実際は生物の多様性や進化にも関係しているそうですよ。しかもこれがまたすごい戦略性を持っている」  ちなみに細菌とウイルスは別物でね...と、すっかり科学にハマっている様子。 「だって、踊るもとになる情念さえも科学的な作用といえるわけでしょ。うれしいとか悲しいとかいった感情はホルモンの影響だとか、FOXP2という遺伝子が言葉を操る力に関わっているとかね。なーんだ、結局科学的な現象なのか、と(笑)」  が、もちろん舞踏家である麿が、科学的な結論で留まるはずもない。 「あらゆる生き物はDNAを運ぶ器みたいなものだ、という人もいるでしょ。単なる器という言い方もできるけど、一方で、今生きている人間は何万年という時を背負っているともいえる。ウイルスに至っては何十億年も前に誕生したといわれているわけで。それはすごい物語になると思うんですよ。人間にもウイルス的な面があるしね。星に寄生して食い尽くして他を探そうとしたり、やっぱり自然は大事だといって木を植えたり...実にウイルス的ですよ。人間がそんなことをするのも、本当のウイルスの作用かもしれないけど(笑)」  麿の中では科学と芸術が森羅万象のひとつとして、ごく自然に融合する。 「なんでも踊るネタになるんですよ。そこからどんな"をどり"が出てくることやら分かりませんが(笑)」  今度の舞台には、創設40年という時の重みも加わる。 「こんなことを40年もやっているなんてバカだなあと思いますけどね(笑)。でも人間が面白くてね。動きも形もひとつとして同じじゃないし、見る度に違ったりして。それでまたウイルスがこの先、人間をさらに進化させるかもしれないし(笑)」  思えば舞踏という表現には"型"や"ルール"が無いが、踊り手たちの"進化"はどこに現れるのか。 「型にはめて踊るものじゃないから、難しいところなんですけどね。例えば、目の前の湯呑茶碗をつかむとすると、若い時は普通にすっとつかみますよね。でも年をとると手がズレて茶碗にぶつかったりする。そこで距離感というものを初めて意識する。ショックでもあるんだけど、ちょっと新鮮で面白い(笑)。若い時は何も考えないで茶碗をつかめるけど、それでは"をどり"としては、つまらないんですね。どこかにズレや迷いがあるほうが、リアリティーが出たりする。若い人はなんでもすぐできちゃうけど"できる"って面白くないんですよ。それは本当に年をとらないと分からないだろうなあ。ざまあみろってね(笑)。生き物にはいろいろな呪縛があるけれど"をどり"では、呪縛されている様を見せたり、呪縛から逃れようとする様を見せたり。何が正解で何が間違いかなんてことがないですから」  麿がいざなう"ウイルスの世界"で、我々は自分たちの遺伝子に組みこまれた"希望"を見つけることができるかもしれない。
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撮影・荒木経惟

大駱駝艦・天賦典式 創立40周年公演 『ウイルス』
振付・演出・出演:麿赤兒 音楽:土井啓輔、ジェフ・ミルズ
【公演日時】7月5日(木)~8日(日) 【会場】世田谷パブリックシアター 【チケット】発売中 S席(1F・2F全席指定)前売4500円 当日5000円 チケット販売窓口:大駱駝艦 0422-21-4984 ticket@dairakudakan.com 世田谷パブリックシアターチケットセンター:03-5432-1515(10時~19時)