鈴木寛の政策のツボ 第二十三回
アスリートの尊厳をいかに守るか
現役選手の告発から明らかとなった女子柔道日本代表監督による体罰の問題。発覚後の全日本柔道連盟の対応が不十分だったこともあり、国民からのスポーツ界に対する信頼は大きく揺らいでしまいました。私は、スポーツの信頼回復のためには、アスリートの尊厳をいかに守るかという観点でスポーツ界挙げてのバックアップの体制を整えなければならないと思います。
今回の事件で露呈したのは、当事者の競技団体による調査体制・対応には限界があるということです。全柔連が問題発覚後に日本オリンピック委員会へ提出した調査報告書も不十分な内容でしたし、体罰を行った指導者を戒告処分に留めようとしたことも、国民の理解を得られませんでした。こうした問題を受け、スポーツ法学会の協力も得て、私が幹事長を務める超党派のスポーツ議員連盟でも総会を先日開き、スポーツ指導における暴力行為根絶のための「第三者相談窓口」と有識者による「調査委員会」を日本スポーツ振興センターに設けることを決議し、議員立法に向けて準備を進めていくことが確認しました。「有識者」の中には、スポーツ関連法を専門とするスポーツロイヤーも含まれます。アスリートの権利を保護し、スポーツの公正さを保つためにも、独立した第三者機関による調査・支援が行える体制を整える準備を着々と進めております。
アジア人初の国際オリンピック委員会委員でもあった嘉納治五郎先生は、柔道を通して「自分の持つ力を最大限に生かし社会のために用いる」という「精力善用」と、「相手を敬い他人と共に栄えある世の中にしよう」という「自他共栄」の二つの精神を学ぶことを願っておられました。柔道のみならず全てのスポーツは、フェアネスとジャスティスを身近に体感できるものであり、だからこそ誰もが尊敬し親しみを持つことができるのです。トップアスリートがそのお手本となるためにも、アスリートの尊厳を守り、権利を保護するための仕組みを早急に整えていきたいと思います。
(元文部科学副大臣・参議院議員)