SPECIAL INTERVIEW 劇団ひとり
お笑い芸人、役者、そして作家。バラエティー番組では司会もこなす。劇団ひとりは、八面六臂の活躍で、視聴者を圧倒し続けている。今年は、話題を集めた『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』で、初めて映画にも主演。「主演だとは思ってないんですよね」と、あくまでもそう話す本人にインタビューした。
2013年も残すところ、あと1カ月と少し。今年の流行語、ベストヒット商品、ベストな音楽、ベストなお笑い芸人など、と何かと年間ベストでざわざわし始めてきた。そんななか、今年のベスト映画候補に、するりと、でも抜け目なく入ってきそうなのが、劇団ひとりこと川島省吾の主演映画『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』だ。
役者としての演技経験も豊富だが、本作で初めての映画主演。だが、本人は「主演作……うーん、本当に初主演といっていいのか、それは微妙ですね……」と居心地の悪そうな表情を見せる。
「作品には満足しているし、いいものができたって自信もあるんです。だけど、これが主演作なのかどうかいうと、どうかなあって思いますね。僕は役を演じるからこそ“主演”であると思っていて、この作品での僕は演技はしていないですからね。役者ではなく、あくまでもプレイヤーとして、『キス我慢選手権』というゲームに参加しているイメージなんです。筋書きも知らない状況で現場に入っていますし、セリフもすべてアドリブですし。まあ、みなさんに主演といってもらえるのはありがたいですけど」
テレビやバラエティーの関係者、芸人など、業界視聴率が最も高い番組のひとつとされる『ゴッドタン』(テレビ東京、毎週土曜深夜2時10分)。映画は、この番組内の1、2位を争う人気企画『キス我慢選手権』を発展させたものだ。番組では、劇団ひとりを始めとした芸人が、セクシーな美女たちがあの手この手でキスを迫ってくる状況に放り込まれ、彼女たちをうまくやり過ごすとともに、自分自身がキスしたくなる気持ちを我慢して、ストーリーを紡いでいく。ただ、キャストのなかで主人公だけが筋書きをいっさい知らされず、セリフも与えられていないという制約付きで、その場その場で相手の出方に対応し、セリフも自分で生み出していく。
映画も番組のスタイルをそのまま貫いた。「この企画では撮影はいつも突然スタートするという伝統があるんですよ……」と、本人。撮影は、旅ロケといわれてロケバスを降りたその瞬間、号令がかかってスタート。「まあ、だいたい『キス我慢』だなって、分かりますけどね。今回だって、旅ロケなのに、顔にキズの特殊メイク、スタッフからはひざ当てもするようにって言われましたから」
テレビの画面からスクリーンへ。それに比例して、ストーリーも壮大になった。ひなびた温泉地でのしんみりしたメロドラマかと思えば、廃墟へ大移動。タオル1枚、薄い浴衣しか身に着けていないセクシー美女が迫ってきたかと思えばコワモテの兵士に囲まれ、気付けばわずか数メートル先で大爆破だ。撮影を振り返るとき、さすがの本人も驚きを隠さない。
「そんな大きな爆発ではないんだけれど、僕自身はまったく聞かされていないから、とても大きく感じて……大丈夫か、と。これまでテレビやスクリーンで見ていた世界にポンと入れられてしまったような、自分自身の目が撮影のカメラになってるような感覚です。振り返ったら15人の兵士が迫ってくる。飛び込んだら人に爆弾が仕掛けられていて、爆発もしてしまう。すごい臨場感です。そんな情景を目の前にしながら、どんどんその世界に没入していく感じですね」
すべて一発撮影で、やり直しはまったく効かない。爆発シーンでは、知らずに爆破地点の上に立ったり、メインのカメラの真ん前に立ってしまえば場面が成立しない。そもそも爆破が失敗するかもしれない。劇団ひとり本人はもちろんだが、周りを固めるキャスト、スタッフにとっても、とてつもなくスリリングだ。そんな緊張感が張り詰める現場で思うのは、ただひとつだという。
「頭にあるのは目の前のことにどう対処するか、それだけです。というか、それしかできないんですよ、余裕がないから。でも何かしなきゃいけない、言わなきゃいけない。自分がやることが、僕の知らない“筋書き”に合っているのかどうかなんてことも考えてないというか、考えられないです。だから僕はその状況や共演者に合わせていくだけなんですよね。時々、ムチャをやりすぎてしまうこともあるんですけど、そこはガイドしてくれるバディ的存在として出演している岩井秀人さんがいる。違う方向に行きそうなときは岩井さんが止めてくれるので、彼に任せて思いっきりやっただけなんですよ」
そう話すわりには、物語を盛り上げたり、感情を揺さぶる名台詞がポンポン飛び出し、さりげなく伏線が回収されたり、何よりも笑いのポイントも押さえられている。もちろん、監督の編集手腕にもよるところではあるのだが……。
「セリフについてはよく聞かれるんですが、考える前に口から出ちゃってる感じです。考える時間を与えられちゃったらあんな臭いセリフ、きっと言えないですよ。恥ずかしくて(笑)。セリフをストックしておいて、いいタイミングで出すとか、そういう計算なんかもできないし、伏線の回収だとか、ここで笑いが!なんてことも、まったく頭にないんですよね。ただ、過去の経験値から、自分が『キス我慢』の世界に入れば入るほど、周りが照れ臭くて笑っちゃうというのは分かってるので、笑わせてやろうという下心もなくやれてるところもあるのかもしれません。笑わせようと思う脳みそでいたら、きっとこんなふうにはなってないんじゃないかな」
大事なのは自分自身が没入すること。面白みや、アングルは、長年タッグを組んできた、おぎやはぎを始めとした、一緒にこの企画を作り上げる芸人に任せる。その絶妙なバランスが『キス我慢』を人気企画たらしめる理由のひとつ。別室で芸人たちが劇団ひとりに対してコメントを発する「ウォッチングルームは、「『キス我慢』には、とくにこの映画には切り離せなかった」と、本人はいう。
「ウォッチングルームは他の企画でも登場しますけど、特にこの映画では、おぎやはぎさんやバナナマンさんが的確なコメントをしてくれていることで、いわゆる“映画映画”したものではなく、ちゃんとバラエティーになったんだと思います。ウォッチングルームがなかったら“バラエティーチームが頑張って映画やっちゃったよ!”っていうものになっていたんじゃないかな」
括りとしては映画だが、あくまでもバラエティー。それがこの作品が他の映画作品と一線を画す理由でもある。その想いを反映したようなセリフも、劇中で飛び出した。「いくらだって、笑わせてやるよ。だって、みんな笑いたいんだろう?」。
「あのシーン、実は自分でも感動しました。あのセリフは『ゴッドタン』という番組、馬鹿馬鹿しいことを大真面目に作っている出演者とスタッフを代表した言葉であり、みんなの想いだと思うんです。なんせ、ひとつもためになることをやってる番組じゃないし、情報も何もない番組ですからね。僕らはただ、おもしろいことをやりたい、笑ってもらいたい、ただそのモチベーションだけで何年もやり続けているんです」
さまざまな仕事をするなかで、劇団ひとりにとって『ゴッドタン』は特別だという。リミッターを振り切って、面白いことを追求できる場だからだ。
「スタッフも含めて、現場には、自分の目で見えていたり感触があるものをやっていくのではなくて、どうなるか分からないけどやってみようっていう雰囲気がありますし、それをやらせてくれる番組なんです。どんな人たちが見ているかだとか、放送時間帯よりも、何よりも自分たちが面白いと思うものをやっている。ここまで単純に笑いだけを追求した番組はほかではないと思います。もし、この番組がなかったら自分はすごくストレス溜まってるんだろうなって思いますよ」
映画は、JAL国際線で機内映画の11月のラインアップにも加えられたそうで、さらに『キス我慢』そして『ゴッドタン』の魅力は広がっていきそう。劇団ひとりの視線もさらにその先を見つめている。
「可能だったら、10年後か、20年後になって、“このゲーム、この遊びって『ゴッドタン』って番組から始まったんだよね”って言われるような、そういう番組になっていたら、もしくはそういうフォーマットを作っていけたらなって思うんです。今、至るところでいろんな人がやっている大喜利も、その昔、『笑点』で立川談志さんがフォーマットとして確立したもの。そういうものがこの番組で一個でもできたらなって思っています。それこそ、海外に『キス我慢』のフォーマットが届いて、誰かがやってくれたらうれしいなあ。そうすれば、じっくり見られるから。実は僕、『キス我慢』をちゃんと見たことがなくって、この映画で試写会があったからどうにか見たぐらいで……。だって、恥ずかしいじゃないですか(笑)」
(本紙・酒井紫野)
『ゴッドタン』の名物企画『キス我慢選手権』がスクリーンでカムバック。番組で、忍耐力とアドリブ能力を引き出して、Mr.キス我慢の称号を得た劇団ひとりが、セクシーアイドルの誘惑や、さまざまな妨害を乗り越えながら、24時間キスを我慢し続ける。
劇団ひとりに与えられた設定は、記憶を失った元暗殺者・砂漠の死神こと、省吾。彼の行く手には、暗殺組織の赤い闇、不死身のゾンビ、敏腕刑事、そして何よりもキスをせがむ美女たちが立ちはだかる……。
共演は、劇団ひとり演じる省吾と共闘する信太郎に、劇団ハイバイ主宰の岩井秀人。美女たちには、葵つかさ、紗倉まな。さらに、窪田正孝、斎藤工、ミッキー・カーチスらが出演。東京03、バカリズスム、マキタスポーツも登場する。
BD&DVDは20日発売! レンタルは12月4日スタート!
【豪華版(2枚組)】の本編DISCには、映画本編と笑わずにはいられないオーディオコメンタリー(劇団ひとり、おぎやはぎ、佐久間監督)を収録。特典DISCには、未公開シーン、本編メイキング映像、記者会見や前夜祭などのイベント映像集、さらには「東京03飯塚のぶらぶらアンデッド散歩」や、サンボマスター×ゴッドタンによる主題歌『孤独とランデブー』のミュージックビデオなどを収録。ブルーレイ 6090円、DVD 5040円。【通常版】は、本編とコメンタリー、「キス我慢選手権ダイジェスト」などを収録。ブルーレイ4935円、DVD3990円。ポニーキャニオンより発売。詳細は映画公式サイト(http://www.god-tongue.com/http://www.god-tongue.com/)で。
PRESENT
『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』のDVDを抽選で2名様にプレゼント!
(係名・キス我慢DVD)