娘の視点から探る、革命家の母の姿 シェーン・オサリバン

 重信房子とウルリケ・マインホフという女性革命家として名を馳せた彼女たちの姿を浮かび上がらせる、ドキュメンタリー映画『革命の子どもたち』。1960年代の貴重なニュース映像や、関係者の証言を含めて、彼女たちの姿を実の娘たちの視点から探った作品だ。本作で監督・プロデューサーを務めたシェーン・オサリバンに聞く。

 雨降る新宿に、来日中のシェーン・オサリバン監督を訪ねた。インタビュー会場に指定されたのは、テアトル新宿。映画『革命の子どもたち』がまもなく封切られる映画館だ。映画のなかにもたびたび登場する新宿を背に、監督は「この作品を日本のみなさんにも見ていただけることになってうれしい」と、笑顔を浮べる。

 アイルランドに生まれ、現在はイギリスのロンドンを拠点に活動。これまで、政治史に焦点をあてた作品などさまざまなドキュメンタリー作品を発表している。「ドキュメンタリー映画との出会いは事故みたいなものだったけど、自分のやりたいことをするのに最適な場が見つかった!と思いました」

 最新作『革命の子どもたち』は、重信房子、ウルリケ・マインホフという、女性革命家の姿を、彼女たちの娘の視線から描き出すもの。その本格スタートは2001年だったと監督は振り返る。

「2001年のG8(イタリア、ジェノバ)で大きな暴動が起こりましたよね。その様子を見て、1960年代後半のスピリットが戻ってきたのではないかと思ったんです。この時代の動きには興味を持っていましたし、いつか取り組んでみたいと思っていたテーマでした。これは僕にとって大きな作品になるはずという確信もあって、このプロジェクトをスタートさせ、日本赤軍とドイツ赤軍の2つのグループに行き当たったんです。もちろん他にも同じように活動をしているグループはいましたが、彼らがこれまであまり描かれてきていなかったことが後押しになりましたね」

 ベトナム戦争での惨劇を見たことで、世界革命によって資本主義勢力を打倒し、世界をより理想的な方向へと導くために活動したグループ。日本赤軍の重信房子、そしてドイツ赤軍のウルリケ・マインホフ。ともに、「パワフルな女性が率いていた」「彼女たちが娘を持つ母である」という共通点が、製作していくうえでのドライブに。それに加えて、その娘たちがともに作家・ジャーナリストとして活動しているという一致も重なった。

 映画は、重信とマインホフの当時の姿を描き出す資料や証言、そして重信メイとベティーナ・ロールという2人の実の娘たちのインタビューを軸に紡がれているが、監督によれば、その道程は楽ではなかったようだ。

「メイもベティーナも母親についての著作を発表していたので、彼女たちに協力を仰ぐべきだし、話を聞くべきだとコンタクトを取りました。それが2003年です。メールなどでやりとりを重ね、協力を得られることになったのですが……その段階では、製作費の算段が整わなくて撮影に着手できませんでした。その資金を集めるために取り組んだのが、ロバート・F・ケネディーの『RFKマスト・ダイ』(原題、2008年)です。当時、僕の妻が彼の暗殺事件について調べていたのがきっかけで僕も興味を持って……始まりはそんな偶然からでした。でもこの作品のおかげで、本作の撮影に着手できるようになったんです」

 東京、ベイルート、ヨルダン、ドイツと国境をまたぎ、膨大なアーカイブを介して時代も超える撮影・制作。話を聞く相手は、パワフルな女性革命家のDNAを受け継いだ娘たちだ。タフな場面も多々あった。

「捜査官のように振るまうべきではないと考えていたので、基本的には彼女たちに任せ、インタビューを重ねています。メイは気を配って言葉を選んで話していました。彼女の言葉によって何らかの影響を受ける人、グループがまだいるからです。ベティーナには、逆インタビューされることが多かったですね。僕がフォーカスしようとしているのは、“革命家の子ども”であるベティーナなのか、革命家の母なのか、とかね。彼女は、600ページ超にも及ぶ書籍を出している上に、母親についてのドキュメンタリー映画を発表した映画制作者でもあるんですが、“あのマインホフの娘が作品を発表”というとらえ方をされるという経験をずっとしてきている。そんなこともあって、これまでドキュメンタリーには協力してこなかったそうなんです。だから、この作品のプロセスを信頼してもらうということが大変でした」

 そんな状況のなかでも撮影を重ね、心を揺さぶる場面やフレーズも飛び出した。「メイが小菅にいる母を訪ねた時や、ベイルートでの撮影はすごいインパクトがありましたね」と、監督は振り返る。そのシーンも含め、劇中には心に突き刺さるフレーズや胸に迫るシーンが何度も登場。鑑賞後も強烈な印象を残す。

「僕は、この作品がきっかけとなって、いろんなことを話してもらえたらいいなって思っているんです」と、監督は言う。「以前、この作品を同志社大学の学生に見てもらったことがあるんですが、その時、親の話や歴史として重信房子のことを知っていたけれど、聞かされていた姿とは違った彼女の姿を見ることができた、と。これをきっかけにいろんなことを話したり、考えたりするんじゃないでしょうか。同じ時代のことを描いた他の映画を見るだろうし、文献にもあたるかもしれないです。その延長として、現代が抱える問題にももっと自然に目を向けるようにもなるんじゃないでしょうか。映画ってそうあるのが理想だし、僕はそういう映画を作りたいって思っています。ドキュメンタリーだけでなく、フィクションも含めて」

 現在、監督の頭のなかには、「実現はなかなか難しいかもしれない」次回作のアイデアがあるというが、その一方で気になることもあるという。「去年、娘が生まれたんです。これまでずっと映画作りに夢中だったから、遅くなったけど初めての子。うん、だから、これからが……ちょっと(笑)。ほら、子どもを持ったことで人生のニューチャプターが!とか言われますけど、それって本当で。だから今、僕自身、僕がこれからどうなっちゃうのか心配なんです」

 革命家たちの知られざる姿はもちろん、親と子のつながり方も感じられる魅力的な本作は、7月5日公開。
(本紙・酒井紫野)

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『革命の子どもたち』

監督・プロデューサー:シェーン・オサリバン 出演:重信房子、重信メイ、ウルリケ・マインホフ、ベティーナ・ロール、足立正生、塩見孝也、大谷恭子 他

作家でありジャーナリストである重信メイとベティーナ・ロールが、それぞれの母であり、女性革命家として活動した重信房子とウルリケ・マインホフの生き様を探る。2人のインタビューのほか、貴重な映像ニュース映像や関係者のコメントやインタビューも。
©Transmission Films 2011
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