真壁刀義 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で声優デビュー

マッドマックスの無秩序感は新日の道場、 「ヤるか、ヤられるか」感はプエルトリコに似てる。両方経験している俺にはちょうどいいよな!

 ハリウッドの人気アクション映画の最新作、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で声優デビューを果たしたのが新日本プロレスの真壁刀義。“スイーツ真壁”として情報番組でリポーターを務めるなどジャンルを超えて活躍中だが、ついに“ハリウッドデビュー”となった!?

 真壁が声優を務めたレクタス・エレクタスを演じるネイサン・ジョーンズはPRIDEやZERO-1のリングに上がった経験もある元プロレスラー。今回の吹き替え声優のオファーを受けたときはどんな気持ちだったのだろう?

真壁(以下、真)「吹き替え声優の仕事の話があるって聞いて2つ返事で、“OKだっ!”ってね。それからレクタス役だって聞いたんだ。オレは極悪ヒールやってたから、すぐにレクタスの感情とか言葉の声色は想像つくんだよ。“ああ、こういう感じでムカついてりゃ、こういう声出るよな”って。それはもう“感じている”部分だから、考えなくても分かっちまうんだな」

 声優デビューを果たし、イベントでは「次はハリウッド・スターを目指す」と宣言!

真「まぁね、それは多分……周りがほっとかないと思うんだよ。……って言うかさ、よく恥ずかしくもなくこんなこと言えるでしょ、オレ(笑)。あのさ、基本的に現場が楽しくないと、その楽しさって人に伝わらないと思ってんだよ。だからさ、オレの見た目が怖そうだからって“このヒトは笑えねぇんだろうな……”と、思わせておいての“ポップ”だよ!じゃないと、つまんないよな」

 この映画はバイオレンス描写が過激で、前半では主人公マックスが激しく蹂躙される。あの状況を真壁選手に当てはめると2001年から海外遠征していたプエルトリコの雰囲気に近いのでは?

真「プエルトリコは……ヤバいよ。新日本にとってあの危険地帯に入るのはオレが10年ぶりのことだし、そりゃ“そんなの島流しじゃねぇか”って思うだろ? ずっと“コノヤロー! ふざけやがって!”ってさ思ってたよ。プエルトリコって街中や閑静な住宅街にイキナリ2mくらいの不自然な“塀”が立ってるんだよ。“何コレ!? 向こうは刑務所か?”って聞いたら、“これは向こう側の悪い地帯のヤツが入って来れないようにしてるんだ”って言うんだ。でも昼間見てるとさ、その塀を乗り越えて、人が入って来てんだよ、どんどん(笑)。“完全に無意味だよね、コレ”と思ったけどね(笑)。さすがに最初の1〜2か月くらいは塀のほうには近づけなかったな。あそこに世界中の悪が集中してるんだよ(笑)。プエルトリコの団地ではさ、ゲートの周りにふたり見張りがいて、車が入ってくると誰かに電話で“オイ、なんか変なヤツ入ってきたぞ”って連絡するんだよ。で、車を停めると、チャラついた男が映画みたいに指先で鍵をクルクルまわしながら近づいてきて“オイ何か用か? オマエは何が欲しいんだ?”って聞いてくる。まあ、ルール無用だよな(笑)。そんなところにいたらさ、もう『マッドマックス』の世界なんて怖くねぇよな。“こんな世界もあるよな”と思うぜ」

 ルール無用のプエルトリコと、新日本プロレス入門当時の道場では、どちらがより恐ろしい世界?

真「う〜ん…、そのふたつは似て非なるモノだな。新日本の道場では正しいことやっても無駄だったんだよ。否定されるからさ。“じゃあ、何が正しいんだ?”ってのが、分からねぇ世界だからよ。結局は先輩が絶対だから。その先輩がおかしけりゃ、おかしいのが正しくなる。だから、この映画の“無秩序感”は新日の道場に近いかもな。で、法律的な意味での“ヤるか、ヤられるか”では、プエルトリコに似てる(笑)。だから両方経験してるオレはちょうどいいよな、足して2で割ったら……って、そりゃオカシイだろ!(笑)プエルトリコも今はだいぶ治安良くなったらしいけど、オレがいたころはマジでヤバかったね」

 最近は、リングではNEVER無差別級王座のベルトを巡って石井智宏選手と熱戦を繰り広げている。テレビで見ているだけでも会場の盛り上がりが伝わってくる。

真「“盛り上がる”なんてモンじゃねぇよ! 狂喜乱舞してアゴ外してるぜ、みんな(笑)。だけど冗談抜きでさ、オレと石井って似てるんだよな。キャリアが近くて、デビューからなかなか陽の目を浴びなかったのもね。だからお互い苦しい思いをしながらもずっと練習してた。 あのさ、“レスラーの保険”っていうモノがあるんだよ。それは何かというと“練習”。自分を鍛えるしかない。練習しまくったヤツが、いつか何か爆発的に大当たりする。それが、そいつのブレイクなんだ。遅かれ早かれそれを支えるものは練習しかねぇから、自分でトレーニングをガンガンやるワケだ。スパーリングなりボクシングなり、とにかく全部だよ。それをやり続けて、いつ来るか分からねぇ“大当たり”を目指して頑張るだけなんだよ」
 石井選手も境遇が似ていて、たくさんトレーニングをしてきたからこそ今、真壁選手の攻撃を受けられるし、お互いがお互いを上げている。レスラーにとってそのような「ライバル」の存在は重要だ。

真「そう、それなんだよ。オレの同期には藤田和之がいたからな。藤田とは入門した段階ですげぇ差が開いてたワケ。オレなんかペーペーで、いついなくなっても構わないヤツだけど、向こうはレスリングの全日本チャンピオンで4連覇してる人間だったからね。モノの価値に変換したらオレがゼロ円で藤田は1000万円だよ。だったらさ、その差を埋めるしかないだろ? そうしないと自分の価値が生まれてこないからね。比較されて“ふざけんじゃねぇ”っていう気持ちとか“反骨心”しかなかった。オレのほうが半年くらい先輩なんだけど、向こうはエリートとして扱われ、一方のオレは雑に扱われてたから、安っぽい反骨心もあってさ、挨拶以外いっさい藤田には口をきかなかったんだよ。だけど5カ月くらい経ってデビューに向けた練習がはじまったころ、ふと向こうから“真壁さん、今日ちょっと飲みに行かないですか?”って誘いがあったの。“お? なんだ?”と思ってさ、メシ食いに行ったんだ。それで酒が入ってきたら“真壁さん……オレ、ぶっ殺したいヤツいるんですけど、どう思います?”って言い出すんだよ。で、“オレはアイツだ”って具合に、ふたりで愚痴を言うようになったの。その愚痴がお互いの心をリラックスさせたんだろうね、いつの間にかいろんなことを話すようになった。オレは図太いけど藤田は繊細だからさ。彼はエリートでそれ相応の努力もしてきたけど、その“エリート”っていう見られ方が嫌だったんだろうな。夜眠れなくて“一緒に飲みに行きましょうよ”って誘ってきてさ、ロレツ回らなくなるぐらい飲むんだよ。ただオレは翌朝また地獄のシゴキがあるから、毎晩そんなのに付き合うの正直嫌なんだけどさ(笑)。そんな思い出もあるから良いライバルであり、“よし、コイツには負けたくねえ”って思えるんだよな。人間ってさ、こういう存在がいないとダメだよね。お互いに競う相手がいないと埋もれちゃうんだよ。これでいいと満足するところもあれば、これじゃダメだ、どうしたらいいんだろうって悩むときもある。今は本間朋晃みたいにコンビでありながらも主従関係が下の人間と一緒にいて、そいつが上がってくれば“よし! 俺も上がるぞ!”ってなるけど、そういうヤツがいない限り絶対に落ちるんだよ。そうするとプロレスの情熱とか、いろんなものが欠けてくる。そうならないためにいつも奮い立たせてくれるのはさ、本間なり、今のチャンピオンクラスのヤツらだよ。“よし! 全員ねじ伏せてやる!”ってな。そういう部分は、石井も同じこと考えてると思うぜ。だからこそやれるんだよ。それからオレと石井だけじゃなくて本間もキャリアはほとんど同じだしな。アイツは若作りしてるだけで、オレとは1年違いだから。オイル塗りすぎでたまにつかんだらプルンって滑るんだよな(笑)。本間は今キテるよね〜。でもあれは彼の努力の賜物だよ。やっぱり、プロレスの内容が良くなきゃメディアに出たって花は咲かないんだよ。でもアイツのプロレスの素晴らしいところは、負けても上がってるんだよ。オレ、“負けても上がるヤツがホンモノだぞ”ってことをアイツにとことん言ったことがあった。それで今どうよ? 試合で勝つときもあるし、負けてもお客さん盛り上がってるでしょ。オレだって同じだよ。ブーイング浴びてさ、勝つか負けるかでやって、勝ちゃぁ勝ったで大歓声あがるしな。それがホンモノのプロレスラーなんだよ」

 映画の公開直後にあたる7月5日、大阪城ホールで石井選手とのNEVER無差別級選手権試合がある。

真「負けらんないよな。この映画が一足先に世間を騒がせると思うんだけどさ、その次は新日本プロレス大阪大会だよ。全国のヤツらはまず『マッドマックス』を見て、大阪城ホール見に来い!ってね。それで夏の『G1 CLIMAX 25』に来たら最高だね! G1は役者が揃ってるから、そのなかで群を抜いてくるのはやっぱり場数踏んでるヤツだけ。オレはよ、メディアの場数も踏んでるから、“おまえら全員のみ込んでやるよ”っていうのが本心だからな!」

 メディアの場数という点で真壁選手は一般人からの認知は一番だ。

真「道端歩いてても声かけてくれるんで、“どうもありがとう”って言いながらも心では“……だろ?”って思ってるよ(笑)。でも、それはプロレスの世界にいるからこそなんだよ。タレントじゃなくて“プロレスラー・真壁刀義”を芸能で使って頂いてるだけ。プロレスラーとして、いまはNEVERのチャンピオンだってのを上げてかねぇと、ホンモノのプロレスを広めることもできないし、メディア戦線でも上がれねぇんだよ。だから、これからハリウッドから話が来ても、プロレスラーやりながらのハリウッド・スターだな! オレ、『スター・ウォーズ』から声かかると思うんだけどよ(笑)」

 真壁選手も40歳を過ぎた今も若いころのコンディション保ってるのは凄いことだ。

真「オレにとっちゃ当たり前なんだよ。それは昔から良いも悪いも道場での教育があったからだろうね。あるとき、亡くなった山本小鉄さんに言われたことがあってさぁ……。あのね、オレ、練習中に道場を閉め出されたことがあったんだよ。“もうお前なんかいらねぇバカ。出てけコノヤロー”って。それでモタモタして先輩の食事の用意ができてないとまたぶっ飛ばされちまう。もう道場には入れねぇし、しょうがねぇからシャワー浴びようとしたら、小鉄さんがいて“おう、真壁どうした?”って。“いや何でもないっス”って言ったら、“何でもないわけねぇだろバカヤローコノヤロー!”って怒られてさ。お互いフルチンで。“オレは正しいことやってて、誰よりも声出して誰よりも正しいフォームで練習しているのに、何をやっても殴られ、否定されて、何が正しいのか分かんねぇんすけど、何やったらいいんスか?”って聞いたんだよ。そしたら“バカヤローコノヤロー!”ってまた怒られて。“オマエよぉ。誰よりも強くなれ。誰よりも強くなったら、誰もお前に文句言わねぇ”って。一瞬、この人は何を当たり前のことを言ってんだろ?って思ったんだけど、ハッ!と気づいたの。オレね、入門したとき誰よりも強くなってベルト巻いてやろうと思ってたのに、いつの間にか殴られたり怒鳴られたりしているうちに委縮しちゃって、誰にも文句言われないように練習を頑張ろう、と思うようになってた。練習を頑張っても、強くならなかったら、意味ないんだよね。練習のための練習なんだよ。ああそれか!って、目の色が変わった。その日から“コイツら全員血祭りにあげてやる!”って思ったね。でもやっぱ非力だから1日や2日でできるワケがない。3年かかったけど、そのころはもう誰も文句言わなかったよ、オレに。プエルトリコに行く前には総合格闘技の練習もやってたし、ずーっと練習してたから怖いモンなかったね」

『マッドマックス』は男臭いイメージだが本作ではシャーリーズ・セロン演じるフュリオサが反逆の狼煙をあげて活躍していて、その逆に、か弱い美女たちも出てくる。真壁選手の理想の女性像はどちら?

真「か弱いオンナってのは“見るもの”だね。そばにいてくれたら、ありがたいっていうさ。フュリオサみたいな女性っていうのは、“オカアチャン”にピッタリなんだよ。プロレスラーの奥さんは主導権を持てる女性であれば、こっちが楽でいられるからね。楽だと何が良いかっていうと、オレはプロレスのほうで主導権握ってるから。両方で主導権握ると相当疲れるからよ。家のことは“はい、分かりました”って聞いてれば楽でいい。だから、結婚相手としちゃ、フュリオサは最高の女性だね」

 レクタスは意外と女性に弱いのかな?と思わせるシーンもある。ちなみに真壁選手もやはりオンナには弱い?

真「レスラーってのは、そういうトコがあるんだよね〜(笑)。たまに頼りにされたりすると“ハイハイ”って従っちゃったりしてね。ま、オレにはそういうところはない!……とは言えねぇな(笑)」
(本紙・本吉英人)

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石油、そして水も尽きかけた世界。資源を独占し恐怖と暴力で民衆を支配するイモータン・ジョーの軍団に捕らえられえた元警官マックスは、反逆を企てるフュリオサらと共に、奴隷として囚われた美女たちを引き連れ、自由への逃走を開始する。

出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーンほか/監督:ジョージ・ミラー 配給:ワーナー・ブラザース映画 2015年6月20日(土)、新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他にて2D/3D&IMAX3D公開 http://www.madmax-movie.jp/http://www.madmax-movie.jp/

新日本プロレス「DOMINION 7.5 in OSAKA-JO HALL」 (2015年7月5日(日)16:00〜 大阪・大阪城ホール) 問い合わせ:新日本プロレスリング株式会社 http://www.njpw.co.jp/