江戸瓦版的落語案内 夢の酒(ゆめのさけ)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
大黒屋の若旦那がニタニタしながらうたた寝をしていた。おかみさんが起こして聞くと夢を見ていたと言う。どんな夢かしつこく聞くおかみさんに、決して怒らないならと約束させ、語り始めた。ある夏の日、商用で向島に出かけた帰りに、あいにくの雨に遭遇した若旦那が、近くの軒下で雨宿りをしていた時の事。家の中から女中さんが出てきて、「あら大黒屋の若旦那。そんな所に立っていないでお入りなさい」と声をかけてきた。誘われるまま家に上がると、そこにいたのは年のころ25、6の絶世の美女。中肉中背で目元に愛嬌がある色白のいい女。気が付くと、目の前にはお膳とお酒が用意され、その御新造さんがお酌をしてきた。若旦那が「家のおやじは大の酒好きですが、私はいただけません」と断ったのだが、勧め上手な御新造さんはと盃に酒をついでくる。つられて飲んでいると、お銚子が2本、3本と空になり…。
しかしもともとが酒に弱い若旦那、しばらくすると気分が悪くなってきた。それを見た御新造さんは、隣りの間に床を取るように女中に言いつけ、布団を敷き若旦那を寝かせると、あれこれ介抱してくれた。そうこうしていると御新造さん緋縮緬の長襦袢1枚になって、若旦那の布団の中へそろそろと入ってきて…。それを聞いたおかみさんは大逆上。「キーッ! 悔しい。この浮気者!」。普段はおとなしい嫁の興奮状態に、大旦那が慌てて飛び込んできた。訳を聞くと、せがれが向島に行って、女性とひとつ布団に寝たという。それを聞いた大旦那は大激怒。
しかしよくよく聞くと夢の話と知り調子抜け。しかし、おかみさんは怒りが収まらず大旦那に、淡島さまの上の句を詠み上げて寝たら人の夢に入れるという言い伝えがあるので、若旦那の夢に入ってその女に、二度とちょっかいを出さないように注意してくれという。仕方ないので、言われた通りやると、夢の中にあの御新造さんが。「先ほどはせがれが世話になりまして」と言うと、「若旦那が言ってましたが、たいそういけるクチとか。今、燗をつけてますから、少しお待ちになって。そうそう、燗が付くまでは、冷酒をお召し上がりになります?」「いや、冷は体に毒だといいますし、もう少し待ちます。それにしてもまだ燗はつきませんかな」。と言ったところで、おかみさんに起こされた。おかみさん、「お小言をおっしゃろうというところを、お起こしてしまいましたか?」「いや、ヒヤでもよかった」