江戸瓦版的落語案内 化物使い(ばけものつかい)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
本所割下水に住む元御家人の吉田老人は大変に人使いの荒い隠居で有名だった。そのため、口入屋から奉公人を紹介されても、なかなか長く務まらない。しかし、そんな噂には負けずに、田舎者の杢助という男が紹介されてくるとさんざん用事を言いつけておきながら「今日は初日だから、骨休めをして、明日からみっちり働いてもらうよ」という始末。しかし杢助さんは、嫌な顔一つ見せず、黙々と仕事をこなし3年勤め上げた。
しかし、そんな杢助さんがある日「旦那様、お暇をいただきてえのですが」と言ってきた。「人使いが荒いからか?」「いいえ、それは辛抱してきました。だけんど…今度引っ越す家が、化け物屋敷だっつー噂を聞きやんした。本当なら、お暇をいただきたい」と。実は吉田老人は、今の家より広く、安いという理由で、化け物が出るという噂の家に引っ越しを予定していた。どうしても化け物が嫌なら仕方がないと、杢助さんの退職を認め、引っ越しを手伝ってもらうと暇を与えた。
その晩、食後に一人で読み物をしているとゾクゾクと悪寒が。嫌な気分だなと思っていたら、目の前に見慣れない子どもが。「人さまの家に断りもなしに入るとは何事だ! 頭を上げ!」と言い子どもがゆっくりと頭を上げるとなんと一つ目小僧。「お前が悪寒の原因か。どうでもいいけど、せっかく出てきたんだから、晩飯の後片付けを頼む。その後は、布団を敷いて、肩を揉みなさい。ああ、明日からはもっと早く出てきてくれ。いろいろ用事を頼みたい」。
翌日もまた悪寒。今度は大入道が出てきた。「今夜はお前か。とりあえずお膳を片して、洗い物をして、その後は布団を敷け。それから、外の庭の石灯籠を直させ、屋根の上の草をむしって。お前なら梯子を架けずにできるだろう」。そして翌日、またもや悪寒がすると、今度はノッペラボウが現れた。「なまじ目鼻があるために苦労している女は何人も居るんだから顔がなくて良かったじゃないか。まず、着物のほころびを直しておくれ。糸を通すことができるのか。どっから見てるんだろうね。やっぱり小僧よりも女のほうがいいね。これからは貴方が出てきてくれ」とリクエスト。次の晩、心待ちに待っていると、悪寒はせず、大きな狸が現れた。「お前が毎晩化けて出ていたのか。おや、何で涙ぐんでいるんだい?」「お願いがあります。お暇を頂きたいのですが」「暇くれ?」「こう化け物使いが荒くちゃ辛抱できかねます」。