長島昭久のリアリズム 国家と安全保障を考える(その13・完結)
これまで12回にわたって、国家と安全保障について考えてきました。その前提として、地政学、リアリズム、国際秩序という3つの視点の重要さをまず強調しました。その上で、古代の聖徳太子以来の日本外交史を紐解きながら、大陸に対しては「和して同ぜず」の姿勢を貫きながら、「海洋国家」として自国の平和と繁栄、国際秩序の安定に努力すべきことを説いてきました。
最終回は、今日の地政戦略的な環境における我が国の安全保障戦略のポイントを述べていきます。そこでは、「三つの安定」がカギを握ります。第一に、我が国安全保障の焦点である中国との関係の安定。第二に、地域の国際秩序の安定。第三は、その土台としての日米同盟関係の安定です。
第一の中国との関係を安定化させるためには、勢力均衡(バランス・オヴ・パワー)の再構築が急務です。急速な経済発展を背景に圧倒的な軍事力と強硬な対外姿勢を隠さない中国の政治指導者に対しては、力の空白や後退の姿勢を示してはなりません。そのためには、日米を中心とする動的(ダイナミック)な抑止体制をインド・パシフィックの友好国と共に再構築して行く必要があります。ただし、強硬策に強硬策では、「安全保障のディレンマ」に陥ってしまい、地域はますます不安定化するでしょう。そこで、その愚を回避するため、第二に、中国やロシア、インドなど、私たちと必ずしも基本的な価値観や政治体制、国家目標を共有していない地域の大国も取り込む形で信頼醸成を基盤とした安全保障協力のネットワークを築く努力も並行して行う必要があるでしょう。最初は、災害救援活動など出来る協力から始めるのです。
それらの基盤となるのが、「国際公共財」としての日米同盟です。台頭著しい中国との勢力均衡点を見出し、地域秩序を安定させるためには、日米同盟の強化はもちろんのこと、その基本構造を安定化する不断の努力が求められます。じつは、日米同盟の基本構造は、極めて脆弱な均衡によって成り立っています。それは、日米安保条約の5条と6条を読めば一目瞭然です。5条で、日米が共同対処する契機は、日本の領域が侵害された場合に限られています。「欧州や北アメリカ」における加盟国への侵害を契機とするNATOや、「太平洋地域」における締約国のいずれかに対する侵害を契機とする米韓、米豪、米比同盟と比べても不公平な条文です。しかし、日米安保では、6条で日本が基地を提供する義務を負うことで、その不公平を解消する立てつけとなっているのです。これを私は、「有事のリスクは米国、平時のコストは日本」と言ってきました。この責任分担の非対称性を是正することこそ、両国民の中にある不公平感を払拭する唯一の道だと考えます。私は、政治家として、いつの日かこの不均衡条約の解消を実現したいと考えます。 (衆議院議員 長島昭久)