魔夜峰央の大ヒット漫画『パタリロ!』が舞台化!! パタリロ役はやはりこの人だった 池田鉄洋(脚本)&加藤諒(主演)&小林顕作(演出)
少女漫画の枠を越え、多くのファンを持つ魔夜峰央の大ヒット漫画『パタリロ!』が12月に舞台化される。主役のパタリロを演じる加藤諒、演出の小林顕作、脚本を担当した池田鉄洋の3人に話を聞いた。 (THL・本吉英人/撮影・蔦野裕)
『パタリロ!』は1978年に少女漫画誌「花とゆめ」で連載が始まり、掲載誌を変えながら現在も連載が続く人気漫画。マリネラ王国国王、パタリロ・ド・マリネール8世(通称・パタリロ)が周囲を巻き込んで起こす騒動を描くギャグ漫画だ。
作品とはどんな出会いを?
小林「もちろん存在は知っていました。テレビアニメも見ていたんですがで、少女漫画ということもあって雑誌を買って読むということはなかったです」
池田「同級生の女子がはまっていて、その当時はアニメがまだなかったので、彼女たちが勝手に“クックロビン音頭”に節をつけて踊っていた記憶があります。彼女たちも普通に読むというより “少しだけ隠れて読む”的な感じだった。本格的に知ったのはアニメで。ずっとギャグ漫画だと思っていたんだけど、今回読み返してみて、ギャグもそうだけど、だいぶエロいなって思いました(笑)」
加藤「僕もアニメを見せてもらったんですけど、“すごくあえいでる”って思いました(笑)。これを子供が見ていたっていうのは、ちょっと驚きですよね」
池田「今じゃダメでしょ(笑)。昔はエッチな番組もたくさんあったからね」
小林「それが男同士だったというのが、また、ね」
加藤「僕はビジュアルは見たことがありました。でも漫画は読んだことなかったし、アニメも知らなかった。こういうポーズのやつは見たことがあったんですけど、それがクックロビン音頭ということも全然知らなかったんですよ」
お母さんがそのへんの世代かも。
加藤「母はびっくりしていましたよ。しかも座長ということも合わせて、一気に2つのビックリが来たという感じ。でもすごく喜んでいました」
単行本がスピンオフ作品も合わせると100巻以上。脚本はどういう感じ?
池田「まず“30巻までで”ということになり、そこまでかなり読み込んだんですが、これだけでも5本くらい作品が作れるなって思いました。一応緩やかなストーリーがいくつかあって、ひとつひとつのストーリーはちゃんと感動して終わるというようになっている。魔夜先生が書かれた部分をそのまんまお借りして、という形で作ったら5つの傑作ができるなと思ったので、最初は5巻までを中心に書かせていただこうと思ったら、それでも3時間の超大作になってしまいました」
小林「でも3時間というわけにもいかないので、今回は1時間半くらいにぎゅっと濃縮します。魔夜先生と相談させていただいた時に、“今回はパタリロを知ってもらうとか、舞台化するとこうなるっていうものでドカンとやりたいんですよ”と言ったら、魔夜先生は“強めのジャブでポンと見せるくらいの感覚でいいよ”って言っていました(笑)。そして“この舞台当たるよ”とも」
加藤「僕はみなさんとは別の日にお会いしたんですが、その時にも“この舞台当たるよ”って言ってました」
小林「また怖いのが“もしこれがうまくいかなかったら、誰かが悪いことをしているんだ”って言うんです(笑)」
池田「怖いな?(笑)。でも魔夜先生の存在感には圧倒されました。そして上品。ギャグとかエロいことを書いていらっしゃるけど、素が上品だから書けるんだなって思いました。そういう人って上品な方が多いじゃないですか」
今回漫画を読んでどんな感想を?
小林「バンコランとマライヒの今でいうBL(ボーイズラブ)の走りというようなところにも、品がありました。それでその2人を中心に置きながらも、パタリロという真逆の存在を主人公にしているのも面白い構図だと思いました。パタリロには色気がないじゃないですか。でもそのパタリロというものを主人公にすることで、作品をよりポップにしている。それが人気につながったんじゃないかと思うんですが、魔夜先生自身それを狙ったわけではなく、自然とそういうバランスの構図になっていたのかなっていうのを感じるので、そこを僕は存分に出したいとは思います。作品の色としては、すごくきれいな品のあるエロさの部分とものすごくバカな部分というのがなぜか同居している。バンコランがパタリロに会っちゃうとえらい下品になるというのがポイントじゃないですか。バンコラン役の青木玄徳君はこの作品で初めて会ったんですが、絶対にそういうことが表現できるって思いました。マライヒ役の佐奈宏紀君も、ものすごいきれいだし声もいい。下手すると青木君と付き合っちゃうんじゃないかなって思っちゃうくらい(笑)」
加藤「この間、歌の稽古があったんですけど」
小林「ほかのみんなが稽古しているとき、後ろで2人で、こう…」
加藤「そう。1個のイヤホンを2人でこう…」
小林「俺、別に指示してないのに2人で役作り始めてた(笑)」
脚本を書く前にディスカッションみたいなものは?
池田「パタリロ!って原作を読んでいない人もとんでもなく面白い作品というイメージを持っている。だからそれを越えなきゃいけないねという話はしていました。それで“じゃあどうする?” “ふざける?”みたいな感じで、だいぶふざけた感じの脚本にしました。パタリロ!は漫画を読んでいても分かるんですが、いろんなエピソードが入っているし、懐が深いのでなにをやっても許されるところがある」
小林「漫画の通りにやったら、漫画のほうが面白いってことになっちゃう。目指すのは漫画より面白いものなので、僕らは壊しにかからないといけない。むしろ、どんだけぶっ壊すか。そのほうがパタリロの世界観に近づくという考え方ではいます」
池田「難しいよね。でもどれだけ壊しても、パタリロっていうものがいれば成立する。これはすごい」
原作を越えないといけないということでは一番のキーは加藤さん。今の話を聞いてプレッシャーなのでは?
加藤「僕、ギャグセンスとかって本当にないんですよ。だから今回は、ギャグ要素が自分の中でも課題になっています。お芝居をやっている方々も“コメディーが一番難しい”ってよく言われますよね。イケテツ(池田鉄洋)さんに “僕、ギャグセンスがないんですけど”って言ったら“大丈夫。顕作さんがいるから、顕作さんにいろいろ相談すれば大丈夫だ”って」
小林「(笑)投げたんだね、俺に」
池田「絶大なる信頼感ってやつ(笑)」
加藤「だから顕作さんにいろいろ学ばせていただきます」
小林「いや、でも、ギャグってものすごく真面目にやるのが一番面白いと思うので、多分、加藤君って一番面白いと思う(笑)。笑かそうと思うようなことは一切しないほうがいいのかなと思いますね。ちょっとおかしいという笑いはすぐ起こるんだけど、多分本当に面白くはないと思う。本当に面白いのはド真面目にやるとき」
キャストを見ると魔夜メンズという謎の存在もある。
小林「以前、學蘭帝劇『帝一の國』というミュージカルを演出したときにアンサンブルの俳優たちに“オールラウンダーズ”という名前をつけて、いろいろな役をやってもらったらメーンの俳優たちが出ていても、その子たちがすごく目立ったんです。それがすごく素敵だなって思った。僕はアンサンブルをアンサンブルとしてしか扱わない作品を見るとイライラするんです。癖で、すごい端っこのアンサンブルの子ばっかり見ていたりすることもある。いっそのことというか、その人たちをずっと追いかけたくなるような舞台にしたいんですね。なので魔夜メンズという名前をつけさせてもらって、パーソナリティーをつけて、なんでもやってもらう。彼らは主役を立たせるための存在なんですけど、それがあるとないとでは全然違うという舞台にしたい。そして全員に人気者になってほしいですね」
加藤さんは俳優・池田鉄洋にはどんな印象を?
加藤「この間、舞台版『こち亀』を見ました! 前から大好きです。唯一無二といいますか…」
池田「唯一無二の方から言われると光栄ですけど(笑)」
加藤「いやいやいや、ホントに。僕なんかお芝居の実力とか全然ないんですけど、イケテツさんは実力もあるから重要な役で出演されるし、脇の時でも輝いている。一人でステージ上にいても場を埋めてしまう素晴らしい役者さんで、すごくかっこいいな、職人さんみたいで素敵だなって思います」
池田「僕は、諒君はドラマの『主に泣いてます』で初めて拝見しました。あの漫画がすごく好きで、オカマキャラな役を誰がやるのかなって思っていたら諒君だった。面白いし、ちゃんとその役になっていて、この人はすごいと思ったんです。パタリロ舞台化の第1報が出た時ってキャスティングが発表されていなかったけど、諒君じゃないかって話がバーッと出た。それを見て、みんな期待しているんだな。ついに諒君の時代が来たんだなって思いました」
加藤「いやいやいや」
今回は歌もあるとか。
小林「かなりあります。途中から、ミュージカルにしちゃったほうがいいんじゃないかと思うくらい、入れ込んでます。もし次があったらミュージカルになるんじゃないかな。いや、またやりたいな?って思っているだけなんですけどね」
加藤「でもすべては今回にかかっている」
小林「コケちゃったら終わりだもんね」
加藤「はい、ホントに」
池田「みんながパタリロに持っているイメージを越えなければと思って作っているから、お客さんはかなり満足してくださるか、びっくりして帰るかのどっちかだと思います。どっちにしても、満足していただいて、また次も見たくなるような作品になればいいなと思っています」
小林「いま大事なのは、幹になる座組つくり。人がすべてなので、加藤君が中心となってどんな座組ができていくか。それがすごく良かったら、お客さんにも伝わるので、次も見たいって思ってくれるんじゃないかなって思います」
池田「諒君の勢いがすごいから大丈夫ですよ。絶対面白くなる」
加藤「いやいやいや?」
小林「池田君のプレッシャーのかけ方、意外にすごいね。勢いがある、とか(笑)」
加藤「やば?い」
池田「いや、俺、本音で話してるよ(笑)。ホントに勢いあるから」
小林「稽古にもしょっちゅう来てくださいよ」
池田「稽古見たいから来るよ。多分、脚本通りに絶対にやらないから、だいぶ変わるんじゃないかと思うし、それも興味がある」
加藤「わーい」
小林「俺、結構、脚本通りにやるよ。ネタ変えくらいかな。人でネタが変わることはあるので」
池田「そういう部分で言えば、今回は原作にはないギャグもいっぱい盛り込んでいるんですが、加藤君のことをどう表現しようかと思って、“ダンシングナマハゲボーイ”って名前にしたんですけど(笑)」
加藤「ダンシングナマハゲボーイ…?」
池田「ふざけて書いたら、これいいねってことで歌にまでなっちゃった(笑)」
加藤「そうだったんですね(笑)」
池田「フラワーロックみたいに踊っていたら可愛いかな、と思って、そうしたんだけど、そういうものも人によって変わると思うから、どうなることやら楽しみです」
最後に、舞台役者としては大先輩の池田さんから加藤さんにアドバイスを。
池田「とにかく諒君は顕作君の言ったことをちゃんと守れば絶対大丈夫。そうすればもう、勢いがすごいですから」
加藤「はい」
小林「(笑)事務所の人みたいだな。うちの加藤は勢いがありますから!って」
池田「でも真面目にやって、自分たちが一番楽しんでいれば大丈夫な作品になるんじゃないかな。楽しむことに全力で向かってもらえれば」
小林「そうそう。僕、煮詰まる稽古場が大嫌いなんですよ。楽しくないと嫌。体とかしんどいんだけど、あの稽古場に行くと楽しいなって場所じゃないと、僕もあまり行きたくないんで、それだけはお願いします。だから、僕もそうするけど、(加藤に向かい)ちょっと昨日嫌なことがあって曇っている人がいたら話しかけてあげるとかしてあげてね(笑)」
加藤「はい」
池田「あるお芝居の稽古を見にいった時に喫煙所に行ったら、暗くなってタバコ吸ってて、蟹工船みたいになってた。そんなんじゃ、面白いものなんて作れないから」
初座長公演がこういうスタッフで良かった!?
加藤「ホントに僕、自分が落ち込んじゃったりすると、どんどん沈んでいっちゃったりするんですよ。だから、皆さんと一緒でホントに良かったです(笑)」
もう追加公演も決まるなど期待感と注目度の高い作品となった。さてどんな『パタリロ!』に仕上がるのか、要注目だ。
【日時】12月8日(木)?25日(日)【会場】紀伊國屋ホール(新宿)【料金】全席指定 前売・当日共7800円【問い合わせ】ネルケプランニング(TEL:03-3715-5624=平日11?18時 [HP] http://www.nelke.co.jp/stage/patalliro/ )【原作】「パタリロ!」魔夜峰央【脚本】池田鉄洋【演出】小林顕作【出演】〈パタリロ〉加藤諒/〈マライヒ〉佐奈宏紀/ 〈タマネギ部隊〉細貝圭、金井成大、石田 隼、吉本恒生/〈魔夜メンズ〉佐藤銀平、吉川純広、三上陽永、柴 一平(Wキャスト)、香取直登(Wキャスト)/〈バンコラン〉青木玄徳