治るはずのないがんは、なぜ消滅したのか—『がん消滅の罠 完全寛解の謎』
2017年第15回の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作は、医療本格ミステリー。日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目は、余命半年の宣告をした肺腺がん患者の病巣がきれいに消えていることに衝撃を受ける。実は他にも、生命保険会社に勤務する友人から、夏目が余命宣告をしたがん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後にも生存し、そればかりかがんが寛解するという事が立て続けに起こっているという事を聞く。偶然にはありえない確率で起きているがん消滅の謎を、同僚の羽鳥と共に解明すべく調査を開始。一方、セレブ御用達の病院、湾岸医療センター。ここはがんの超・早期発見、治療する病院として、お金持ちや社会的地位の高い人に人気の病院。この病院のウリは、万が一がんが再発・転移した場合も、特別な治療でがんを完全寛解させることができるということ。果たしてそれはそこでしか受けられない最新の治療なのか?!
がん消滅の謎を追究するうちに、夏目はこの湾岸医療センターにたどり着いた。その病院には、理由も告げずに日本がんセンターを去った恩師・西條が理事長として務めていることが分かり動揺する夏目。一体、そこではどのような治療が行われ、がん患者はどのような経過をたどっているのか。また、自分の病院で起きているがん消滅の謎との関係性は。専門用語が出てくる医療物は苦手な人もいると思うが、同書は非常に分かりやすく、ミステリーとして単純に楽しめる。果たしてそのトリックが可能なものなのかどうかは、判断できないものの、非常に興味深く読め、国立がん研究センターにいたという著者の知識が存分に生かされた大胆なストーリーに驚かされる。