【江戸瓦版的落語案内】紺屋高尾(こうやたかお)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
染物屋の町、神田紺屋町にある紺屋吉兵衛方に勤めている染物職人、久蔵。11の年から奉公しているまじめ一途な26歳。その久蔵が、恋患いで寝込んでしまった。医師の武内蘭石が聞き出したところによると、3日前の吉原見物で見た花魁道中の紺屋高尾が忘れられない。一晩でいいから語り明かしてみたいが、職人風情にはとても手が届かないと思うと、何もヤル気が起きないという。それを聞いた親方「いくら超一級の太夫といっても、そこは売りもの買いもの。筋を通して、初会は10両ぐらいそろえれば、会うことはできよう」と言ってくれた。10両といえば、年収3両の久蔵にとっては3年間働いてもあと1両足りないほどの大金。しかし親方が「3年辛抱して真面目に働いたら、9両に私が1両を上乗せして10両にしてやろう。しっかり働くんだぞ」と励ました。それを聞いた久蔵、とたんに元気になり、それから3年間、一心不乱に働いた。
ついに3年後9両という金を貯め、親方がそこに1両足し10両という金を用意。しかし、いくら金を持っていても紺屋職人では相手にされない。帯や羽織は親方にそろえてもらい、身分も流山の大尽ということに。蘭石先生が茶屋に掛け合うと、高尾太夫の体が空いているという。久蔵が個室で待っていると、夢にまで見た高尾太夫が登場。幸せな時間が過ぎ、帰りぎわ花魁が型通り「主、今度はいつ来てくんなます」と訊ねると、感極まった久蔵は泣き出して、「ここに来るのに三年、今度といったらまた三年後。その間に、太夫が身請けされたら二度と会うことができなくなるかもしれないと思うと辛くて…」と思わず自分の素性や経緯をしゃべってしまった。それを聞いた高尾大夫は涙ぐみ、「源平藤橘四姓の人と、お金で枕を交わす卑しい身を、三年も思い詰めてくれるとは…。わちきは、来年の三月十五日に年季が明けるのざます。そしたら女房にしてくんなますか」。店に戻った久蔵はそれまでにも増して、一生懸命に働いた。そして当日、女房姿に変わった高尾が約束通り店にやってきた。その後、所帯を持ち独立した2人の店は高尾の女房ぶりと相まって評判となり、店は大繁盛。「紺屋高尾」の由来の一席。