教わる側も教える側も「ポスト平成」型へ 【鈴木寛の「2020年への篤行録」 第53回】

 年頭のコラムで「今年からポスト平成の準備をしよう」と呼びかけました。私自身は、10代の学生たちと接する時は「彼ら彼女たちの中には22世紀まで生きる人たちもいるだろう」という思いで、できるだけ視座を遠くに見据えるようにしています。

 皆さんも重々ご承知のことですが、まずこれからの社会が直面することを大前提にします。具体的には、大量廃棄・エネルギー消費・CO2排出など環境問題の深刻化、AIをはじめとするテクノロジーの飛躍的な進化、加速化するグローバル化という大きな変化の傾向にあります。価値観が多様化・複雑化する中では、自分の頭を駆使した「知の創造・難問解決」が求められます。

 そういう時代に求められる人材とはどんなものでしょうか。私は3つの人材が求められると思います。すなわち①「想定外」や「板挟み」と向き合い乗り越えられる人材、②AIで解けない問題・課題・難題と向き合える人材、③創造的・協働的活動を創発し、やり遂げる人材―です。

 防災教育の専門家、群馬大学の片田敏孝教授によれば、災害のように想定外の事態を乗り越えられる人は、「想定やマニュアルに頼りすぎない」「どんな時でも、ミスを恐れず、ベスト・最善を尽くす」「指示を待たずに、率先者になる」そうです。災害を社会問題やビジネスに置き換えてみると、ポスト平成の人材のありようが浮かびます。

 当然ながら、昭和から平成まで日本の教育システムが得意としてきた、「先生が教えたとおりにできる」人材を育てるやり方では行き詰まります。実際の社会問題や課題に取り組むプロジェクト学習を通じ、難問解決の思考力、難問から逃げない姿勢を鍛え抜きます。あるいは、時代が変わっても変わらない、先人たちの哲学、普遍の真理を学ぶことで物事の本質を見抜く力を養うことができます。

 学ぶ側の子どもたち、若者たちの方向性は定まりつつあります。ここで盲点となっているのが、昭和・平成型の教育システムにどっぷり浸かってきた親・教師の世代が、時代の変化に対応しきれていないことです。

 以前、高校の校長クラスの先生がた向けの講演で、冒頭に述べたように「いまあなた方が教えている生徒さんの中には22世紀まで生きる人もいる」と話をしただけでハッとした表情をされます。親や教師は、自分たちの経験を物差しにしがちです。若い人の声に耳を傾け、新しいことへの興味を持ち続ける謙虚な姿勢が、教える側のポスト平成への第一歩です。

(東大・慶応大教授)

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。