【江戸瓦版的落語案内 】たがや(たがや)

 旧暦五月二十八日は両国の川開き。当日は両国橋付近で盛大に花火が上がり、橋の上は見物人でごった返し。花火が打ちあがると、あちらこちらから、「上がった、上がった。玉やぁ〜〜っ!」の掛け声がかかる。そんな中、本所のほうから、お供の侍2名と槍持ち1名を従えた身分の高そうな武士が馬に乗って通りかかった。

 見物人であふれる橋を馬で通ろうなどとは、横暴の極み。すると、ちょうど反対側の広小路から道具箱と、割いた青竹のたがを丸めて輪にしたものを抱えたたが屋がやってきた。武士とたが屋が橋の中央ですれ違おうとしたまさにその時、見物人に押された拍子にたがを落としてしまった。落ちた拍子にたがを止めていた糸が切れ、青竹がシュルっと伸びると、馬上の武士の笠に当たりそれを跳ね上げた。笠は吹っ飛び、川の中へ。武士の頭には土瓶敷きの様な笠台だけが残り、鼻からは鼻血がツーッと…。武士はカンカンに怒り「この無礼者! 屋敷へ同道せよ!」。

 屋敷に行ったら首がなくなるとあせったたが屋。どうかお許しを。病気の両親が腹をすかせて待っているので、何卒ご容赦下さい」と必死のお願い。しかし、何度誤っても「ならん!」の一言。あまりの物分かりの悪さにたが屋も堪忍袋の緒が切れた。「血も涙もねえ、目も鼻も口もねえ、のっぺらぼうの丸太ん棒め。二本差しが怖くて飯が食えるかってんだ、こんちくしょうめ」「なにッ」「斬るなら斬りやがれっ!」と啖呵を切った。これを聞いた武士はたまらずお供に「切り捨てろ!」。

 刀を抜くお供だが、それがガサガサの錆び刀。稽古をさぼっていたため、刀を振り回すもへなちょこで、喧嘩慣れしているたが屋に、あっという間に刀を奪われた。次のお供は頭上から刀を振り下ろしたが欄干に刀が食い込んで抜けない。抜こうと焦っているところをさっき奪った刀でバッサリ。見物人からは、やんややんやの大喝采。いよいよ頭に血ののぼった武士が、馬から降り槍を構える。やぶれかぶれで振り回した刀で、突いてくる槍の首を切り落としたたが屋。武士が槍を捨て、刀に手をかけた一瞬のスキをつき、たが屋が一歩踏み込み、刀を横に払うと武士の首が宙天高くハネ上がった。

 まわりにいた見物人は声をそろえ「上がった、上がった。たがやぁ〜〜っ!」