女子スーパーアトム級GP王者 浅倉カンナ【ジョシカク美女図鑑 第5回】
女子格闘家の素顔に迫るインタビュー企画「ジョシカク美女図鑑」。第5回は昨年行われた「RIZIN女子スーパーアトム級トーナメント」を制した浅倉カンナにインタビュー。
浅倉カンナは2014年に17歳でプロデビューし、女子高生ファイターとして修斗、パンクラス、DEEP JEWELSで戦ってきたのだが、2016年に大きな転機が訪れる。前年に旗揚げしたRIZINからの出場オファーがそれ。浅倉はその初戦こそ敗れたものの、以降、勝利を重ね昨年末、ついにRENAを破り、女子スーパーアトム級の頂点に立った。
「RENAさんも燃えている。自分も負けられない。絶対に面白い試合になる」
「RIZIN.11」(7月29日、埼玉・スーパーアリーナ)でRENAとの再戦がメインイベントで行われる。このカードは5月の福岡大会でGP優勝後の初戦を飾った浅倉の前にRENAが突如現れ、ダイレクトリマッチを要求。浅倉が「RENAさんは大晦日から1試合もしていない」とやんわり対戦に疑問を投げかけたことからファンの間でも物議を醸し、大きな注目を集めることとなったのだが…。
「周りが思っているほど自分は深く考えてはいないんです。“やるならやるで”という気持ち。やっぱりRENAさんも相当燃えているだろうし、自分も負けられないので絶対に面白い試合になると思うんです。だから周りはいろいろな意味で盛り上がっていますが、自分はそんなことは気にせず、挑んでいければいいなって思っています」
5月にリング上で対戦表明されたときは「ちょっと待って!」という感じだったが。
「あの時は試合には勝ったんですが、勝ち方が微妙だったんで、どう答えていいかわからなかったんです。そこはRENAさんにも申し訳なかったんですけど、でも、落ち着いて考えたら別に断ることでもないので、普通にOKしました」
改めてRIZIN側からオファーが来た時は?
「もう、やるしかないなって思いました。もともと再戦はあると思っていたので、それがいつになっても同じだと思っています」
大晦日に勝って王者となった。そして5月まで試合間隔が空いたのだが、その間はどんな時間の過ごし方を?
「試合が終わってからはいろいろお祝いをしていただいて忙しかったですね。成人式もあったんですけど、2月からは練習も毎日やっていました。いろいろな練習ができるなと思っていたんですが、どこを強化したということも特になく、本当にいつも通りの練習をしていたらあっという間に5月になった気がします」
では日々、成長の実感といったものは?
「いや~、実感はできなかったですね。チャンピオンになったじゃないですか。“よし”と思って練習に行ったらいつもどおりにやられて…みたいな(笑)」
所属するパラエストラは男子の強豪選手が揃う。そんな中での練習とあればそれは致し方ないのでは?
「だから本当に強くなっている実感というのは試合でしか感じられない。いや、試合でもなかなか分からないんじゃないですか。なので、逆にそこが良かったように思います。チャンピオンになって調子に乗っていたら練習にも身が入らないと思うので、練習でこてんぱんにやられて“ああ、そういうことか…。まだまだなんだな” ということも分かって、また練習に励むことができました」
5月のメリッサ・カラジャニス戦は判定勝ちだったが内容的には圧倒していた。一本は取れなかったけど、試合内容については満足していない?
「してないですね。試合が終わった瞬間は全然うれしくなかった。1ミリもうれしくなくて、悔し涙が出てきたくらい。映像で見返したらトータルでは全局面で勝っていると思うんですけど、やはりチャンピオンになって1発目の試合だったんであそこは極めたかったですよね。また強くなっているというところをもっと見せたかったです」
あの腕十字はほぼ完全に極まっていたように見えたが…。
「そうですね。相手の関節が柔らかかったのは事実なんですが、腕十字にしても肩が浮いているといった修正点はありました。そう言ったところは勉強になったし、ここまで腕が伸びても極まらない選手がいるということも分かりましたし、ああいう状況になった時は試合の中でも切り替えて次の策を打てるように冷静に戦わないといけないということも勉強になりました」
腕十字がダメならスリーパーホールド、打撃とフィニッシュのパターンも複数用意しなければいけない。
「今は打撃の強化も頑張ってやっています。打撃に関しては次の試合に向けてというよりも、今後に向けてやっていかないといけないことなので。逃げていては何も成長しないじゃないですか」
MMAのキャリアは4年。でも5歳からレスリングで頑張ってきた
女子格闘技の人気が凄い。5月29日に行われたカード発表会見は女子選手だけで行われた。
「女子だけでというのはびっくりですね」
浅倉の場合はデビューの翌年にRIZINが旗揚げした。なのでそのへんの実感はベテランに比べると…。
「私はすごくタイミングが良かったとは思います。ベテランの選手たちの頑張りがあって女子格闘技がここまで続いてきた。それがあったから今、自分が活躍できているわけじゃないですか。でも、そういうことを分かって今リングに上がっているということが伝わってほしいです。格闘技をちょっとやって出られている、みたいには思われたくはないんです。私も小学生のころから高校までずっと、みんなが遊んでいる間、必死になってずっとレスリングをやってきました。選手だけではなくて、ファンの方とか応援してくれる人たちにもそういうことももう少し伝わってほしいなって思います。総合格闘技を始めて4年目くらいなんですけど、自分はこの4年間だけ頑張ってきたわけではないんです。5歳からずっと頑張ってきたわけで、そういうことをもっともっと分かってもらえるように試合で実力を出せていければと思っています」
確かにいきなり始めて通用する世界なわけがない。
「そうなんです。みんなが小学校や中学校で部活を楽しんだり友達と遊んでいる間、自分はずっとレスリングやっていたので、そこの頑張りも伝わってほしいですね」
そもそもなぜ格闘技を始めた?
「レスリングを始めたきっかけは完全にお父さんです。お父さんがもともと格闘技が好きだったので、一緒にテレビで見たりしていたんですけど、自分はまだ全然小さかったので、何も分からずただ見ていただけでしたね。それでお兄ちゃんと自分がいきなりレスリング教室の体験つれていかれて(笑)。お兄ちゃんはやりたくないと言ったんですけど、自分は“すごいやりたい”って言ってしまって、そこからが始まりです。そこからがつらかったですね(笑)」
言わなきゃ良かった?
「言わなきゃ良かったです。それは何回も思いましたね。あの時に自分がやりたいと言ったばっかりに…(笑)」
でもなぜ途中で辞めなかった?
「いくらでも辞めることはできたのに辞めなかったのは不思議です。まあそれしかできなかったということのはあると思いますけど。レスリング以外にも水泳とか柔道とかいろいろやったんですけど、最終的にレスリングだけが残った。別に勉強ができるわけでもないし(笑)。ほかの運動ができるかといったらそうでもない。本当にレスリングだけしかできなかったので、一つのことを極めるしかないなって感じだったんじゃないでしょうか。小さい頃はそんなことは考えていなかったですけど。それにレスリングがある生活が当たり前になっていたということもあったのかと思います」
どこの家も小さい頃は親の影響は大きい。
「やらされている感はありましたよね(笑)。小さい時はお父さんも厳しかったので、“辞める”って言ったら怒られるだろうし。そういうこともあって辞められなかった、ということもあったと思います。小さい頃はお父さんが絶対だったんですが、そうじゃなかったら本当にここまでは来ていないと思うので、今となっては感謝です」
レスリングをやっていなかったらぐれていたかも?
「それすらも怖くてできなかったと思います(笑)。実際、反抗期もなかったし、ぐれることもなかった。厳しく鍛えあげられましたね、ここまで(笑)」
レスリングをやっていたことでいろいろなものが発散されていたのかも?
「多分そうかもしれないです。本当に一緒にレスリングをやっていた子はみんな強かったので、必死になっていたからぐれる気力がなかったのかもしれないですね」
高校生の時は所属するジムでインストラクターやっていたとか。現在はどういう生活を?
「高校生の時はジムでインストラクターやっていました。最近はもう格闘技一本で指導には入っていないんですけど、去年の10月くらいまではちびっこレスリングの指導なんかをしていました。大晦日に向けて集中したいということを鶴屋先生(パラエストラネットワーク千葉代表)に相談して、そこから格闘技だけに集中させてもらっています。トーナメントは絶対に勝ちたいと思っていたんですが、10月の1回戦に勝った時に“このままではダメだ。格闘技だけをやろう”と思ったんです」
以前、インタビューをしたときは休みの日もあまりどこにも行かないと言っていた。
「基本的には今もそうです。月~土は練習で。まあ空いている時間はどこかに行くこともありますが、弟と妹もレスリングをしているので、日曜日はそのレスリングの大会に行ったり格闘技の大会を見に行ったりするので、結局日曜日もつぶれちゃうじゃないですか。で、試合の1カ月前くらいになると、今度は日曜日にトレーニングが入ってくるので、1日オフ、というのはあまりないかもしれないですね」
今年から一人暮らしを始めた。自分で料理もしなきゃいけないとかいろいろありそう。
「そうですね。料理は試合前の1カ月ちょっとはやりますが、それ以外はスーパーで買ってきたりというときもあります。へへへ(笑)。格闘家って食に厳しい人が多いですよね。自分はあんまり食事は…そんなに厳しくやってなくて、好きなものを食べてます。減量の時だけですね大変なのは。でも減量もそこまで大変なほうではないと思います」
ちなみに料理の腕前は?
「全然できないです(笑)。ホント、焼くかレンジでチンか(笑)、茹でるとか(笑)。料理に全く興味がないんです。結構めんどくさがりなんですよ。だから料理も凝ったものが作れない」
同世代とはちょっと違う恋愛観
メイク道具を持っていないという噂があるが…。
「今も持ってきていないです(笑)。道具は誰かからもらったんですけど、どれをどこに塗っていいのか分からず、ずっとしまってあります。開けてすらない(笑)。友達がたまに家に泊りに来るんですよ。最初に来た時に“え? なんでメイク落としがないの?”って言われて、逆に“なんでそんなもの持ってるの?”って話になった(笑)。みんなそこから自分で持ってくるようになりました」
最近は中学生でもメイクする時代。ずっとレスリングをしているから、そこには興味がいかなかった?
「興味なかったですね。というか、その化粧とかを覚えるタイミングを逃した(笑)。高校生になるとみんなメイクの雑誌とか見たりするんですよ。鏡とかも持っているし。私は鏡すら持ち歩かない。メイクをするタイミングを逃して、このまま来てますね(笑)。でもメイクの力はすごいと思うんです。ただ自分はそこまできれいに見せようとか思わないし、別にそこは気にしていないんです。まあ女性として、その考え方はどうかなとは思うんですけど、あまり外見を気にしていない、というか寝ぐせのままでも外に行けちゃうくらいなんで(笑)。この年になったんで、そこはもうちょっと気にしていかないといけないのかなとは思っているんですけどね(笑)。周りからも“今のままのほうがいい”といったことも言われることが多くて、今日も“メイクしてきてください”って言われたんだけど、ギリギリまで寝ていてメイクしないでそのまま来ちゃいました(笑)」
今、格闘技以外に興味のあることは?
「いつも聞かれるんですが全くないんです。探しても探しても出てこない。格闘技しかやってないなって感じです。別に1日中格闘技をやっているわけではないですよ。ずっと格闘技のことを考えているわけでもないんですけど、なんかこれという、別の好きなことがないんです」
空いた時間は体を休めたり、心を休めたり。
「やっぱり寝るのが一番ですね(笑)。時間があったら寝たい。あとは友達といたりとか。基本、一人で考え込むような時間はそんなにないですね」
友達とは格闘技の話題は?
「自分から格闘技の話はあまりしないですね。高校の時も、“え? 格闘技やってたの?”って感じが多かった。普通に日常会話ですね。最近の流行についての話なんかはついていけないです(笑)。でもガールズトークとかはしますよ」
それは恋愛話とか?
「そういう話もするんですが、多分ちょっと人とは考え方が違って、あまり共感できなかったりすることもあるんです。例えば“彼氏から連絡が返ってこない”って言う子がたまにいるんですけど、そういう話を聞くと“連絡が返ってこないから嫌いなの? じゃあ連絡が返ってきたら好きになるの?” って思っちゃう。そういう考え方は理解できなくて、そういうところはほかの人とは違うみたい」
今後についてはどういうビジョンを描いている?
「今後ですか? そんなに考えてはいないです。格闘技をやって、結婚して子供を産んでみたいなそういう人生がいいですね」
格闘技については? 後々、海外で戦いたいということは?
「そんなに詳しくは考えてないです。今はRIZINがあって、日本で格闘技が盛り上がるならそこに入っていたほうがいいのかなと思うし、海外の試合に出てみたいなとも思うし。そこは自分が一生懸命やっていればいろいろな可能性が出てくると思うので、そんなにどこに出たいとかいうのはないですね」
ここにもう敵がいなくなったときに初めて「じゃあ海外かな?」って感じ?
「そうですね。まだそこまで言える状況にまだ自分はいないと思っているし、まだまだ格闘技は覚えることがたくさんあるし、せっかく日本で格闘技が盛り上がっているのに、海外に行く必要もないと思うし。だったら日本で格闘技を盛り上げる中の1人になっていきたいし、という感じですね」
チャンピオンになっても天狗になることもなく、その自然体は変わらない。むしろ、その格闘技観、女性観、恋愛観はその若さには似合わない泰然自若としたところがあり、そこが大晦日のRENA戦での詰将棋のようなフィニッシュにつながっているのかもしれない。
今回のRENA戦に勝っても、RIZIN女子スーパーアトム級は人材が豊富。キャリアが浅い分、どの選手との対戦も新鮮で興味をそそるカードばかりだ。今後あるであろう浜崎朱加という世界を知る選手との戦いにも興味は尽きない。本人は浜崎については「実力は相当上。勝てる気がしないというのは初めて」というのだが…。 (本紙・本吉英人)