【インタビュー】ゆるく、自分らしく。トリプルファイヤー吉田の叙事的な人間性に迫る
「トリプルファイヤー」というロックバンドをご存知だろうか。今、東京のライブハウスで物議を醸すバンドであり、読者各位が想像するであろう普通のバンドとはどこか一線を画す存在である。まず、トリプルファイヤーを初めて見る方は、その叙事的な歌詞とボーカル吉田の着飾らなさに驚くことだろう。
バンドのライブと聞いて想像するようなアツさはそこに存在しない。筆者自身、トリプルファイヤーのライブを目にした時に感じたのは、「ここでは周りに合わせてライブを楽しむ必要はないのだ」という開放感だった。
ライブといえばその場の全員で縦にノリながら、サビで手を挙げて、会場の一体感を楽しむ…というイメージがあった。しかし、トリプルファイヤーのライブにはそういった雰囲気が全く無い。それは多分いい意味でトリプルファイヤーの音楽性と、ところどころ織り交ざってくる吉田のMCが、「ライブを絶対に楽しめ」という煽りを一切感じさせないからだと感じている。ふんわりした言葉になってしまうが、そういう意味でトリプルファイヤーと吉田はひたすらにゆるい。
去年はそのゆるい人間性を取り沙汰され、「2017年注目のダメ人間」としてスポットを当てられた。その「ゆるさ」と「クズさ」は本当にイコールなのか確かめるべく、インタビューした。
7月19日。この日はライブハウス渋谷WWWで、OL Killerと ゆるめるモ!というアーティストとの対バン。キャパは450人。満員のライブ前に、インタビューが始まった。
TH:本日はよろしくお願いいたします。
……………よろしくおねがいします…………。(ボイスレコーダーが拾えないほどの小声)
TH:…!? あ、あの、お元気ですか?
……あの……ちょっと……眠くて…………。
TH:な、なるほど。お疲れのところすみません。
吉田はとにかく声が小さい。「ダメ人間」と称された理由はそういうところだったのだと思う。ボイスレコーダーと体を近づけ、質問を続ける。
TH:では、まず、自己紹介をお願いできますか。
あ、はい。えっと…トリプルファイヤーってバンドで、ボーカルしてます。今年で31歳になります…香川出身です。最近は文章とかバンド以外の仕事をしたりもしています…。
TH:文章もやられているんですか。どこで、何を書かれてるんですか?
EX大衆さんと…あと、FINEBOYSさんで連載させて頂いてます。書いてることは…EX大衆さんのは過去の自分についてで、FINEBOYSさんではもっと細かいことを書いてます。女の子の前でゴキブリを倒した後にドヤ顔してくるヤツがムカつくとか。
TH:普段からすごくゆるいことを考えてらっしゃるんですね。
そうですね。普通のことしか言えないですけど、自分の中にないことを無理して考えて変なこと言っちゃってたら恥ずかしいじゃないですか。だから、歌詞とか作る時も身の丈以上のことは言わないようにしてます。
TH:最近、なにか自分の中で心に残った出来事ってありましたか?
あ~。部屋が、すごく汚かったんですよ。床に物が散乱してる系の汚さで。それをこう……本棚を作ってですね、床にあった物を収納して。机の上を拭いて、ギタースタンドを置いて。部屋っぽい感じになったんで、すごく良かったです。本当に。
吉田は一つひとつの質問に、とても丁寧に答える。声が小さくて聞き取るのは大変だが、トリプルファイヤーの歌詞にある叙事的な雰囲気がそのままその場の空気に流れていた。
TH:ちなみに、「はきはき」自己紹介ってできるんですか?
語気の問題だと思うんで、できると思いますけど……どうも!トリプルファイヤー吉田です!(お笑い芸人の声量)
TH:うわっ!すごい!(?) でもライブ中やMC中も、ちゃんと喋ってますもんね。
まあ……TPOじゃないですか、そういうのって。人前に立ってるやつが、眠そうにバンドしてたら嫌でしょ。MCの内容を決めていないこともあるんですけど、そうすると話の終わるポイントがなくなってしまって、結果つまらない話がダラダラと長くなってしまうことがあるんですけど、そういうクソMCするとメンバーに後で叱られるし…。
TH:ダラダラした話の仕方って吉田さんのいいところだと思いますけどね。
ダラダラ話せるのは、他人がまったく感じいられない細かいところまで、敏感な感受性を持って物事と接しているからなのだろう。そういうところが吉田のアーティスティックな一面であり、それを「ダメ」とか「ゆるい」と言ってしまうのは、中年世代が繊細な若者に告げる「これだからゆとりは」という雑なカテゴライズにどこか似ているように感じる。
TH:それでは音楽のお話を。吉田さんの音楽のルーツを教えてもらえますか?
小学校の頃に、スピッツが好きだったのが最初かな。姉が聴いてて。で、初めて買ったCDはゆずの『夏色』です。中学校の頃にはギターを始めて、THE HIGH-LOWS とかBLANKEY JET CITYとかを聴いてました。
TH:トリプルファイヤーの音楽は、そういったバンドの影響を受けてるんですか?
まあその後も全然違うのに影響受けたりしてるんで……トリプルファイヤーの曲は、ジャンルで言うとオルタナティブロックとかファンクってものになると思うんですけど……。あんまり「自分たちはこのジャンルだ」ってはっきり言いきれないというか。
TH:こういう音楽が好きな人に聴いて欲しい、とかありますか?
ないですね。あんまこっちで間口を狭めない方がいいのかなと思います。強いていうなら、元気のない人は聴いてみればってくらい。
TH:どうして元気のない人に聴いて欲しいんですか?
例えばですけど…『銀行に行った日』っていう曲があるんです。内容は「今日は銀行に行ったから、頑張った。それだけで、今日はもういいじゃないか」っていう曲なんですけど。そのくらい「頑張った」のハードルが低い人間もいるって知ってもらうことで、初めて勇気づけられる人もいるんじゃないかなって(笑)。
TH:(笑)吉田くんは、自分のことを陰キャラだと思いますか?
無口ですけど……別に陰キャラじゃないんじゃないですかね。
TH:確かに意外と。もう少し言うと、イメージではもっとコミュ障なのかと思ってました。
コミュ障ではないと思いますね。まあコミュ障と取られても仕方ないようなことも何度もありましたけど、本当のコミュ障っていうのは相手の言ってることの意図が汲めない人のことだと思ってて…。相手の興味のないであろうことを一生喋り続けちゃうおっさんとかのことだと思うんですよ。
だから世の中の無口や恥ずかしがり屋のみんなもコミュ障じゃないと思います。
「元気のない人」というのは、ライブ中に感じた「強制されない自由を求める人」のことなのかもしれない。コミュ障や陰キャラというカテゴライズに縛られて、自分らしさを強制されてしまう人。周りを気にしてしまう自分にどこか疲れを感じている若者は朝の満員電車にもたくさんいて(若者に限らないことではあるが)、『銀行に行った日』で救われるのは、普段生きているだけで頑張ってしまう人なのだろう。
「ダメ人間」と言われていたが…真面目で素直な一面も
TH:元気のない人へのエールありがとうございます。ライブ中になにか、気をつけていることとか決めてる信条とかはありますか?
うーん…ライブ中は、スニーカーを履いてライブすることにしてることくらい。
TH:スニーカーですか。今サンダル履いてらっしゃいますよね…?
あ、スニーカー持ってきてます…。昔、古着屋やってる人と対バンした時に、「サンダルでライブするのはありえない」って言われたんです。それで、他人から見たらそういうもんなのかな、と思ってスニーカーでやるようになりました。
TH:吉田さんって実はめちゃめちゃ真面目じゃないですか…?バイトが続かないとか、不真面目な一面を取り沙汰されているメディアも拝見したのですが。
いや、なんかあれは……昔、恥ずかしがり屋すぎる時期があったんですよ。知らない人と話すだけで耳が真っ赤になっちゃったり……仕事中ですよ。だから、「接客は向かないな」って思って辞めたりしてました。
TH:吉田さんは早稲田卒ですよね。就職はせずに、そのままバンド一本だったんですか?
最初は就職しましたよ。文学部卒だったんですが、周りはけっこう営業職に行くやつが多くて……営業は無理だろうなあと思っていたので、SEになったんですけど、SEも向かなかったんだよなあそう言えば……。
TH:でも、音楽は向いていると。
向いているかはわからないですけど、今でもやってみたいことがあるというか。仕事やバイトのように、パッとやめて「最高!」とはならないです。
TH:ご実家が香川県の神社なことを、『タモリ倶楽部』でも取り上げられてましたよね。継ぐことを考えたりはしないんですか?
神社って、閉店とかってないじゃないですか。だから継ぐというか、オーナーとして持つのか、自分ががっつりとやるのか……将来的には考えなきゃですけど、そういう将来の大事なことを考えるのが嫌なんですよね。まあ言えるのは、バンドとはうまく折り合いをつけていきたいってことだけですね。
TH:今後頑張って行きたいことは、なにかありますか?
音楽ですね。最近、部屋を掃除してちゃんと机の上に制作環境を作って高まってきたんで。この勢いでまずは目の前のライブと……MCをがんばります。
ゆるく生きるのも勇気がいる。息のつまっている人に聴いて欲しい
さまざまなメディアでクズ感を押し出されていた吉田だったが、話してみると明るく真面目な印象が強かった。吉田の話や、作る歌詞はとても日常的なもので肩肘張らずに聴くことができる。元気になりたいからとか、悲しいからという理由を持って聞かなくても、トリプルファイヤーの歌詞はスッと耳に入ってくる。ライブも「タオルを持って、曲を聴き込んで、スニーカーを履いて……」という強制はない。仕事帰りにスーツでフラッと行っても、いい意味で疲れずにライブを楽しめるだろう。普段ライブに行かないという人も、身構えずに遊びに行ってみてほしい。
次のライブは16日。
(取材と文・ミクニシオリ)
【日時】8月16日(木)19時開場 19時30分開演
【会場】恵比寿LIQUIDROOM
【料金】前売2500円(税込・ドリンクチャージ別)
【出演】ドミコ、トリプルファイヤー