越谷EASYGOINGSに聞く地方ライブハウスのリアル「正直キツイけど、好きだから」
都心の有名ライブハウスと比べると経営努力を強いられる郊外ライブハウス。埼玉県越谷市のライブハウス、越谷EASYGOINGS(イージーゴーイングス)の若き店長サダさんにリアルと努力を聞く。
越谷市は埼玉県東部にある大きな街。越谷駅前も、整備されていて美しい。ベッドタウンとして栄えているのが分かる。
越谷EASYGOINGSは駅前の商店街の中にある。隣には大きなスーパーがあり、雑居ビルの地下をライブハウスとして使っている。外側から見ると、ライブハウスならではの主張はあまりない。壁に貼られたポスターで、なんとなくその雰囲気が分かる程度だ。地方のライブハウスにはこういうところが多い。知っている人しか気が付かないような、ひっそりとした主張で存在している。
訪れたのは平日だったが、その日は地元バンドの先鋭のレコ発ライブということで、昼の13時から音合わせがしっかり行われていた。
ーー越谷EASYGOINGSは、いつから経営しているんですか?
2004年なので、今年で14年目ですね。ここまでがんばれたらそうそう潰れないぜ、という維持で頑張って経営しています。地元発のバンドも育ってきていて、最近は特にやりがいを感じています。
ーーどんなイベントが行われていることが多いんですか?
うちはオールジャンルのライブハウスとしてやっています。社員によるブッキングイベントと持ち込みの企画イベントは半々くらいで、外部ブッキングさんやバンドにも支えてもらっています。
【POINT】持ち込みブッキングのシステムって?……ライブハウスには「ライブハウス主催イベント」と「外部からの持ち込みイベント」の2種類があり、持ち込みイベントの際は主催者が1日のホールレンタル代をライブハウスに支払い、その経費をチケット代のあがりで賄う形となる。なので、持ち込みイベントの際はライブハウス側はある程度売上が保証される。
それ以外にも、地域の方々にも支えてもらっています。商店街のお祭りの時はお祭りと一体化したイベントを組ませてもらったり、商店街のステージでアコースティックライブをやらせてもらったり。ライブハウスって、地域の人からは「怖い場所」と思われてしまうことも多いので、こちらも普段から深夜の騒音に気をつけたり、イベントの際には自分たちと関係のないところまでゴミ拾いをしたりと、イメージのクリーンアップが成功して、今は地域の冠婚葬祭ホールなどとも提携してイベントをやらせてもらうくらい、地域に密着したイベントにも力を入れています。
「都心と明確な差を感じる」地方ライブハウスの苦悩
ーーとても努力されているんですね。では実際に、ぶっちゃけなんですけど……経営は上手く行っていますか?
一言でいえば、そんなことないです。おもしろいイベントをたくさん組もうという努力はしていますけど、都心と明確に差があるのは平日の稼働率だと思います。土日はそれなりに入ることが多いですが、平日はどれだけおもしろいイベントでも、やはり立地で来れないという人も多いと思いますし。
やっぱりライブハウスに遊びに来てくれるメイン層っていうのは若者ですし、越谷も人はたくさん住んでいますけど、なかなか音楽好きでも家庭のある人は、週の真ん中にライブハウスに遊びに来るっていうのは難しいんでしょうね。
ーーとなると、平日は赤字の日もあったりするんですか?
もちろん、日によりますけどね。「やっちまった」みたいな日もあります。昔は平日イベントって、地元の頑張ってるバンドがノルマを払ってやってくれたりしていたんですけど……。
【POINT】ノルマ制度って?……チケットの売上がまだ見込みづらいバンドに、10枚〜程度の「最低ノルマ」を保証してもらうこと。10枚売れなかった場合は差額をバンドが支払う。
今はネットとかで「ライブハウスのノルマ制度反対!」みたいな記事もよく見かけるし、若いバンドもノルマを払いたがらないんですよ。音楽をやる場所も、YouTubeとかSoundCloud(サウンドクラウド)とか、リアルな場じゃなくても披露できるようになってきたじゃないですか。そういう意味では、ライブハウスも存在意義を考えていかないとやって行けない時代になってきてるんですよね。だから、地元の高校生や大学生たちのためのイベントは、こちらも全面協力して、なるべく安くても「リアルの思い出作り」になるようにと頑張っています。演者へのフィードバックもしっかりしますしね。
ーー大変な経営努力をされているんですね……。実際にライバルだと思っているライブハウスなどはありますか?
やっぱりツアーで使ってもらえるライブハウスになりたいですね。埼玉でいうとさいたま新都心や熊谷にあるHEAVEN’S ROCK(ヘブンズロック)というライブハウスや、ジャンルによっては北浦和KYARA(キャラ)というライブハウス。メジャーレーベルに入っているようなバンドだと、地方を廻る時もだいたい一定の「ツアー箱」と呼ばれるようなライブハウスを優先的に廻っていくので、候補に挙がるようになっていきたいです。
ーーちなみに「ここだけは都心に負けない」と思っていることはありますか?
愛と、人のつながりかな。都心の箱にも愛はあるんでしょうけど、やはり出会いの母数が違いますから。地方では一回一回のライブの対バンが本当に大事なつながり。だから、うちはオールジャンルでやっていて、お客さんもジャンルレスにいろんな音楽を楽しんで欲しいし、ジャンルレスな対バンがあることで「普通じゃ知り合えなかった人」と仲良くなれるかもしれない。そういうリアルでの出会いや人の繋がりは、都心よりも力を入れて大事に育てていきたいです。
ーー最後に意気込みをお願いします。
うちはキャパが300人くらいで、ライブハウスとしては割と広めです。それなりのバンドのツアーにも対応できるし、系列店に練習スタジオもあるので、音作りにはこだわっています。お客さんもバンドマンも関係なく、人の垣根は感じさせません。東京の東側の人や、埼玉の人はぜひ来てみてほしいです。
都心のブランド力にはなかなか勝てない、とサダ店長。しかし、こう続ける。「都心ほど維持費は高くない。自分たちなりの戦い方がある」。
地域密着し、若いバンドやお客さんとも密にやりとりし、お客さんごと地域のバンドを育てていく。それと同時に、街の人にも受け入れられるライブハウスになっていく。そういう形の真摯な愛が、地方ライブハウスには確かにあった。頑張って行ってほしい。
(取材と文、写真・ミクニシオリ)