【インタビュー】柄本佑×中野裕太 18世紀ポルトガルと21世紀日本。時を超えた“1人2役”に挑戦
『ビッグ・リバー』『フタバから遠く離れて』の舩橋淳監督が、18世紀ポルトガルと21世紀日本を舞台に時を超えた愛憎劇を描く、異色のラブミステリー。それぞれの時代に生きる人物を1人2役で演じ、すっかり意気投合した柄本佑と中野裕太が、撮影の舞台裏からおすすめのポルトガル料理までを語る!
2人の初対面は現地ポルトガル。
柄本佑(以下:柄本)「ポルトガルのホテルでしたよね」
中野裕太(以下:中野)「そう。佑くんはホテルのエレベーターで、サッカーのベンチコートみたいなのを着てハットを被って裸足に下駄を履いていた(笑)。なんだか気合の入った変な人がいるな、というのが僕の第一印象です。寒かったからコートは分かるんだけど裸足って…しかもポルトガルに行くなら日本男児たるもの…と下駄を、それもおろし立てを履いて来たんだよね?」
柄本「フランクフルトのトランジットで金属探知機を通ったら何も鳴っていないのに空港職員に呼び止められてさ。何だそれというからジャパニーズスタイルだ!って言ってやったら、おいみんな、ここに変なヤツがいるぞ!ってひとしきり笑われて、行ってよし!って(笑)」
中野「ポルトガルでもみんな興味津々だったよね。でもそんなフランクな佑くんのおかげですぐになじめました(笑)」
柄本「僕の裕太くんの第一印象は、和製ニコラス・ケイジ」
中野「初めて言われた(笑)。顔? それとも演技?」
柄本「顔とか、雰囲気。ニコラス・ケイジはお嫌いですか?」
中野「好き。それで言うと佑くんは釣りキチ三平っぽい(笑)」
出会ってすぐに意気投合した2人。
柄本「演技の上でも一緒に芝居をしていて素晴らしい役者さんだなと感じることは多々あって、ちょっとしたことでもそれをよく感じていました。例えば僕が人につかみかかっていこうとするのを裕太くんが止めるというシーンがあるんですが、その力の具合が本当に良い。力が拮抗する芝居にならないといけないので、けっこう難しいところなんです。あと、独特な儚さというか色気があって引きつけられる」
中野「ニコラス・ケイジって儚いかなあ」
柄本「それは初対面の印象だから」
中野「役者としての佑くんは、下駄の話に集約されていると思います。ポルトガルに下駄を履いて行くというパンク精神というか、自分の“幹”がしっかりしているところは一緒に芝居をしていても信頼できる。それぞれが寄りかからずに支え合うというというのが本当のチームワークだと思うんですけど、佑くんとはそういう間柄になることができたと思います。現地で初めて会って、撮影直前までろくに会話も無かったのに」
18世紀リスボン大震災後のポルトガルでは、抒情的な風景とともに、日本人召使の宗次(柄本佑)と四郎(中野裕太)、そして宗次と引かれあう雑役女中マリアナ(アナ・モレイラ)の物語が語られる。
柄本「僕が本作に出演したいと思った一番の理由はポルトガルです。もともとマノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガルの巨匠監督)の映画が好きで、新婚旅行もポルトガルに行くくらい好きだったので、もうポルトガルに行けるなら何でもやります、と。いつか家を買って住みたいと本気で思っているくらい、異常なほど肌に合ってしまって(笑)」
中野「僕も、最初からやらないという選択肢は無かったですね。自然と、これはやるだろうと当たり前のように思える作品ってあるんです。今回もそうでした。やることになったら思った以上に大変な部分もありましたけど(笑)」
柄本「現地での撮影スタッフは舩橋監督と撮影監督の古屋幸一さん以外、全員ポルトガル人で、彼らがけっこうマイペースだったり、そもそも時間がタイトで、リハや段取りを重ねてブラッシュアップしていくことができなかったんですよね」
中野「クオリティーを落としたくないという葛藤も抱えて、監督も大変だったろうと思います」
柄本「あれで古屋さんがポルトガル人カメラマンだったら、こうして完成していなかったかもしれない(笑)。映像も画力があるし。ポルトガルのシーンは、あの土地そのものが絵になることもあって普通にきれいだなと思っていたんだけど、日本での映像を見たらすごく雰囲気があって、海外のカメラマンが撮った日本、という感じ。あれはすごいと思った」
ハードな異国の撮影ながらも、しっかりポルトガルを満喫した2人。とくにポルトガル料理は大絶賛。
中野「僕のおススメはロンビーニョというステーキに、クリームキノコソースがかかったやつ」
柄本「あれはうまいね。見た目からしてボリューミーでね。料理名が“ハイカロリー”でもいいくらい(笑)。あと、フランセシーニャという郷土料理。ステーキの上にチーズ、パン、そしてソースがたっぷり」
中野「フレンチフライも乗っていて。あれは“ハイ炭水化物”だね(笑)」
柄本「それと一緒に飲むヴィーニョヴェルデが最高」
中野「佑くんはけっこう一人でカフェに行ったりしていたでしょ。どこかの店のオープンテラスで一人で食べたって写真を送ってくれたけど、僕は結局その店にたどり着けなかったんだよね」
柄本「ギマランイスにあった店だね。食事しながらヴィーニョヴェルデを飲んで、ぶらぶら歩いてコーヒー飲んで、また歩いて、別の店で2本目を飲んで…気づいたらホテルの自分の部屋で寝ていました(笑)」
21世紀東京オリンピック後の日本では、リストラで夢破れ自死を選んだ幸四郎(中野)と、ポルトガル人の妻マリナ(アナ・モレイラ)、リストラ宣告を下した加勢(柄本)の物語が描かれる。愛する人を奪われた女の復讐が再び描かれるのだが…。
中野「副題に『時の記憶』とつけられているんですが、ある悲劇が時を超えて繰り返されるという、ファンタジックな側面もある物語になっています。1人2役を3人の役者が演じることで、繰り返される復讐劇を俯瞰で見ることができる。それによって寓話的に、見る人それぞれの心に迫ってくる映画になっていると思います」
柄本「でも、アナはずっとあのラストシーンが納得できなくて迷ってたという話を聞きましたね。ファンタジックで現実的ではないって。アナだけじゃなくポルトガルのスタッフはほとんどそう思っていたらしくて。それで僕は、じゃあ君らはどういうラストならいいの?と聞いてみたんです。そうしたら、加勢があわやというところでガッとマリナをつかんで救うのがいい、って。この人たち、のんびりしてる割に過激なことを言うなあ、と(笑)」
中野「それだとトム・クルーズ的なラストになるね(笑)」
繰り返される悲劇の先に希望を見つけられるのか。寓話的なラストにその答えを見出せるはず。
(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)
監督:舩橋淳 出演:柄本佑、中野裕太、アナ・モレイラ他/2時間19分/パラダイス・カフェフィルムズ配給/シネマート新宿他にて公開中 http://porto-koibitotachi.com/