「翔んで埼玉」を観て考える、“映画とポリコレ”【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 ただ今、三栄町LIVE×黒田勇樹プロデュースVol.3「リライト!」絶賛上演中です。

 ありがたいことに満員御礼の回が続いております。まだ何とかなる回もあるかと思いますので、ご興味持たれた方はぜひチャレンジしてみてください。

 初日を迎えるともう俳優たちに頑張ってもらうしかないので演出家なんてもう哀れなもんなんです。

 そんなわけでバタバタしつつも、しっかり映画は見てきました! では映画鑑賞記、始めましょう。

 パタリロ!でお馴染み魔夜峰央先生の漫画原作映画「翔んで埼玉」を観てきました。

 冒頭から、もはやネタとして魔夜先生ご本人の映像を背景に「実在の地名とは関係ありません」というテロップとアナウンスを流しておいて、その直後には皆見たことのある日本地図をババーンと映して、始まる過激な「埼玉ディス」

 ひと昔前なら大爆笑ですが、今映画界は空前の“ポリコレ”ブーム。

 世界的な流行を見ると、全く逆行した、いや、反逆的ともいえる“地域差別映画”が始まったのです!

 ポリコレというのは簡単に説明すると「政治的、社会的な観点から公正公平に、職業や性別、人種、文化、民族、宗教、ハンディキャップ、年齢、結婚の有無…等々に対して差別や偏見を招かない表現」つーヤツで、身近な所だと「”看護婦”をやめて”看護師”にしよう」とか「”肌色”をやめて”ペールオレンジ”にしよう」とか、そういうヤツ。

 今、特に海外ではこの配慮がされている映画の評価が高く(今度のアカデミー賞も白人と黒人のバディものですね)、お姫様が王子に守られず自分で戦ったり、登場人物の人種の比率が実際の地域と合わせてあったりすると「興行成績が伸びる!」と言われています。

 このブーム自体の良し悪しは一旦置いておいて、僕個人の意見を言わせて頂くと「1作品の単位でポリコレを完結させるのは無理よ!」ということ。

 全ての映画には、ステレオタイプの勧善懲悪でなくても「主人公」「悪役」が出てきます。「悪役」っつーのは必ず性根が腐っている必要はなく「主人公の視点から見て障害となる」役割のことですね。主人公の成長を描く物語の場合、かならず障害が必要になるわけです。

 今作の場合、悪役は「東京」そしてそこに住む者たちの「特権意識」となるわけなのですが、東京生まれ東京育ちの僕は、一切不快な感情を抱きませんでした。

 それは、決してこの映画がポリコレ的配慮を東京人に行ったからではなくて「映画ってそういうものだから」です。

 本当に”公正公平”であるならば、あらゆる職業や性別、人種、文化、民族、宗教等々の人物が主人公になるべきであり、そうなれば同じようにあらゆる人が「悪役」として描かれなければいけません。

 コメディリリーフ、笑われ役も同じ。「黒人」も「オカマ」も「白人」も「アジア人」も「異性愛者」も「障碍者」も、ある映画では「主人公」また、ある映画では「悪役」「笑われ役」として描かれる社会こそ、本当に公正公平なんじゃないでしょうか!?

 日本映画の悪役なんて大体政治家か警察が悪役で、完全な職業差別ですよ!?

「寅さん」なんて未婚男性ディス以外の何ものでもありません!

 でも、面白いじゃないですか!!

 最終的には「映画界全体で見た時、あらゆる人々が主人公として描かれている」そんな社会になればいいな、と思っています。

 映画の感想はというと、シティボーイの僕には「わらび」「ちちぶ」で大爆笑が起こる感覚がいまいちわからず、会場との温度差が凄かったですが、帰りの井の頭線に向かう道すがら僕以外の観客が皆、埼京線か副都心線へ向かう姿を見て答えが出た気がしました。

 特にこれといったテーマもメッセージもないので、埼玉や北関東圏のネタで笑いたい皆様には気軽に見て楽しめるお勧めの映画です。

黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23

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