【徳井健太の菩薩目線】第18回「勝負事は日常の自分と地続きでつながっている」

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第18回目は、ギャンブルの勝ち方について、独自の梵鐘を鳴らす――。

勝負事は日常の自分と地続きでつながっている
でかいことから逃げてきた人は、大勝負でこそ逃げなきゃいけない

俺は、毎年150万円ほどギャンブルで負けている。
なぜ、そんなに負けるのか分からない。

この前、グランジの五明拓弥と飲んでいたときに、そんな話になった。五明と話をしていると、あることに気が付いた。

そもそも、俺は芸能界の中心にいるような芸人じゃない。芸能界の郊外で、ひっそりと畑を耕す小作農芸人。芸能人のメッカである西麻布や恵比寿に住みたいなんて思わないし、スポーツカーよりもワンボックスカーの方が好きだ。天邪鬼と言われればそれまでだけど、世間一般で言われている“かっこいい”は、俺にとっては“ダサい”ことの象徴にしか思えない。

ところが、だよ。

競馬やボートレースをするとき、俺は本命を中心にお金を投じていた。俺が芸能界で生き続けてこれたのは、本命を狙わなかったからなのに。なぜ、俺はギャンブルになると、自分の生き方を否定するかのように王道ばかり狙うのか……なぜ負けるのか分かったよね。

相方の吉村は、ド真ん中に投げがちだけど、ちょっとそこからズレている。ベタなんだけど、ベタじゃない。そういうときこそ、あいつは一番面白い。吉村は、ほとんどギャンブルはしないけど、時折、ネットニュースで取り上げられるように、なぜだか三連単の万馬券を当てる。

生涯で20回ほどしか賭けたことがないにもかかわらず、三連単一点買いを3、4回的中させている。買い方を見ていると、「本命×対抗×ベタじゃないもの」。そう、あいつの芸風にシンクロするような買い方をしていたの。

反面、俺は芸風と真逆の買い方をする。そりゃ、当たらない。俺がゴールデンのMCを狙うタイプだったら、それでいいと思う。王道を当てに行くための日ごろの感覚や戦略が、ギャンブルのときにも発揮されるだろうから。自分の性根や生き方と重ならない買い方をすると、勝負事って外れるんだなって。人生の勝負の時にも言えるかもしれない。大きく自分の性根から逸脱した賭け方をしても勝てないんだよね。勝負って、日常の延長線上にあるんだから。

ギャンブルは、統計学とも言える。だから、当てようと過去のデータをさかのぼって、いろいろと考える。ところが、俺はお笑いにおける統計学は無視している。ギャンブルのときだけ発動する都合の良い統計学なんてあるわけないんだよ。常日頃からデータと向き合っている人は、日常の些細なところでもデータが生きるんだろうけど、そうじゃな人がやっても発動しないんだ。都合の良いときだけ、学問に頼る。そんな愚かなことはないんだよね。


賭け事の度量が、身の丈を超えることはない。一発逆転なんてない

第12回「 “お笑いはみんなの力で作るもの ”と再認識させたSKE48山内鈴蘭のすごさ」でも触れたけど、お笑いはチームプレイが重要だと思っている。ということは、俺に関してはギャンブルもチームプレイを意識したほうが当たるのかもしれない。だけど、ボートレースや競馬は個人プレイ。ホント、ギャンブルって怖いんだ。いつもの自分じゃなくなるんだから。

番組の企画で、手元のお金を100万円にするという企画があってさ。そのとき、俺は千鳥のノブさん、カンニング竹山さん、DAIGOさんに相談して、その意見を参考に馬券を購入した。20万円ほどかけて、見事に的中。お金は、目標の100万円を超えた。ギャンブルにおいて、いかに俺の考え方が参考にならないか痛感したよ。そのことを嫁に告げると、「ギャンブルをやめろ」と言われた。何も言えなくて・・・夏。

そんなことを悟って以来、俺は1レースの上限額を1000円までに定めてお金を投じている。その程度の金額ならトントンになるから不思議だよ。ただ、爆発しそうな自分がいて怖い。こんな賭け方を続けていたら、カイジでいうところの“沼”に手を出したくなる自分が潜んでいる。

「だったら、G1のような大きなレースのときに、多めに賭ければいいじゃないですか?」なんて言われる。だけど、そうではないんだ。人生と地続きでつながっているってことは、大きな大会こそ、俺はスルーしなきゃいけない。M-1もキングオブコントも避けてきた俺が、どうして天皇賞やグランドチャンピオンのときに、大金を投じて勝てるんだって話。

大勝負をやっている人だからこそ、大勝負で勝てる。賭け事の度量が、身の丈を超えることはない。しょうもないときでしか本気を出せない人は、しょうもないことが活かされるシーンを数多く作った方がいい。それでいい。その方が結果を出すに決まっている。

俺もかつては朝から並んでパチンコに行っていたけど、そんな行為、芸能界でやった試しがないんだから、打ったところで「損」しか生まれないよね。賭け事に、一発逆転なんてないんだよ。

※徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。