【徳井健太の菩薩目線】第37回 東野幸治さんのアドバイスを受けて、俺は喫茶店のマスターを目指そうと思った

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第37回目は、先輩・東野幸治から授かった至極のアドバイスについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
 吉本が、今年1月からAmazonグループの「Audible」による新コンテンツを発表したことは、あまり知られていない。「Audible」というのは、音声コンテンツをアプリやPCサイト、Amazon EchoシリーズをはじめとしたAlexa搭載デバイスから視聴できるサービスとのことで、実のところ俺もよく分かっていない。ざっくり言ってしまえば、新しい時代のラジオ的なコンテンツってことだと思う。

 この吉本が届ける「Audible」のラインナップの中に、東野幸治さんがMCを務める『よしもと芸人音声データ』という番組がある。ベテランから中堅までの芸人と東野さんが、多岐にわたってトークをする。先日、ありがたいことに、その番組に出演させていただいた。

 『菩薩目線』と謳っておきながら、俺自身、まだまだ煩悩のかたまりだ。迷える老羊にならないために、賢者と言える諸先輩方の話を聞くことで、菩薩の門に少しでも近づきたい。東野さんは、まさに俺にとって涅槃に導いてくれる達観の境地にいる先輩の一人だ。

 どういうわけか番組では、まさにお互いが独自の説法を交換するような、交換日記ならぬ交換煩悩をする機会に恵まれた。東野さんが抱える10の悩みに対して俺が恐れ多くも回答する、そして、俺が抱える10の悩みに対して東野さんが見解を示す。東野さんの悩みが聞ける数少ない機会だと思うので、その様子は『よしもと芸人音声データ』から確認してほしい。今日は、俺が東野さんから授かった鮮烈なアドバイスについて話したいと思う。

 例えば、俺は、

 「地震が発生したとき、台風が直撃したとき、グループラインやTwitter上で、「徳井さん、大丈夫ですか?」と聞いてくるのは、どういう感情から聞いてくるのか?」

 と、東野さんに聞いた。友人、知人でもあるから、とりあえずでも安否確認的なことをしたいんだろう。でも、安否確認ではなく、「安(全)」が大前提の質問であって、もし、俺が倒れていたら返信しようがない。そもそも、「お前は助けに来てくれるのか?」と、俺なんかは思ってしまう。万が一もあるわけだから、想像力が欠落しているような質問・確認をしてきて、何がしたいのか俺には分からない。「自分は心配しています」という前のめりのアピールをする人間=優しい……そう思われがちな世の中と、俺はどう向き合うべきなのか。ざっくり言うと、相方・吉村のことなんだ。


配慮や想像力が欠落している人だからこその魅力



 すると、東野さんはこう答えた。

 「徳井君の言っていることは正しいだろう。そういう人たちは、自分を中心に世界が回っているから、そこまで気が付くことはない。だけど、誰よりも半歩先に声を出す人でないと、人は付いていかない、つまりスターにはなれないんだよ。俺も君と一緒だ。だから、徳井君のような考え方をしている人は、半歩早い人の横にいないと、追いつこうとしない。同時に、半歩早い人間にとって、良き調整者になることができる。お互いに良いパートナーってことなんだよ。俺も、今田耕司という男がいてくれたことが大きいんだ」

 ユリイカ。レゾンデートル。膝を打った。吉村は、俺の手で葬ってやならければいけないと思っていたけど、東野さんから言われて、目指すべきはWコウジのような関係性なのではないかと、歩速をちょっと早めることができた。東野さんも若くして結婚して、子どもを育てる父親だから、俺はとても学ぶところがあるんだ。

 そしてもう一つ、昨今、俺はご意見番のように芸人やアイドルについて語らせてもらう機会が増えている。だからこその悩み。「ありがたい一方、自分が推している彼ら、彼女らが思うようにブレイクしていない姿を見ると、申し訳なさ、やりきれなさを感じてしまう」とも聞いてもらった。東野さんは、落ち着いた表情で、

 「喫茶店のマスターだと思えばいいんじゃないかな」

 と微笑むんだ。喫茶店のマスターに売れさせる力はない。だけど、心が休まるようなコーヒーを出すことはできるよね、と。たしかに、売れない芸人やアイドルに対して、温かいコーヒーを出すように、悩みや相談に耳を傾けることはできる。

 「徳井君が良いと思ったアイドルを吉村君に伝えることで、人が付いていくタイプである彼の発言をきっかけにその子たちが注目を集めるかもしれない。そのときに、「自分の手柄にしやがって」と思うのではなく、徳井君はその様子をテレビで見つめながら、また君の前に現れた人にコーヒーを差し出せばいいんだよ」

 東野上人――。そう呼ぶしかない。今回、俺が授かったアドバイスは、実はものすごく汎用性が高いと思われる。読者の皆さんの中にも、上記した感情を抱いてしまうようなケースがあるはずだ。そのときに、東野上人の説法を思い出してほしい。誰もが人気者になれるわけじゃない。そういうとき、どう自分や周囲を見つめることができるか。そのヒントになると思うんだよね。


◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。