映画「閉鎖病棟 それぞれの朝」に見る、リアルと都合とドラマ【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 現在、三栄町LIVE×黒田勇樹プロデュース vol.7「この暗闇を超えて、温泉に行こう」が絶賛上演中です。

 今回は主演としてステージに立たせていただいている一方で、脚本は僕、黒田の作品でして、脚本家そして俳優の2つの立場で演出の吉久直志さんにはとてもお世話になっております。

多くの皆様に見ていただきたいと思ってます。まだ見られる回もあると思いますので、ちょっとでも興味を持たれましたら、ぜひ!

 今週は鑑賞記やります。

 では始めましょう。
黒田勇樹
 平山秀幸監督、笑福亭鶴瓶さん主演「閉鎖病棟 それぞれの朝」を観ました。
 公式で発表されている範囲で、ざっくりとあらすじを説明すると、

 長野県の山奥にある精神科病院の閉鎖された病棟で、死刑執行が失敗し生き延びてしまった為、隠ぺいするように長年入院させられている殺人犯、鶴瓶さん演じる梶木が、綾野剛さんや小松菜奈さんが演じる様々な事情を持った他の入院患者たちと交流していく中で、とある事件が起こり、院内で梶木が殺人をまた犯してしまう…

「その優しさを、あなたは咎めますか?」というキャッチコピーと共に公開された今作。舞台は大きく2ヶ所、前半は閉鎖病棟内で、その患者たちの生活などが描かれ、事件が起きて以降は裁判所でストーリーが進んでいきます。

 サブタイトルに「それぞれ~」とある様に、主人公に鶴瓶さんを据えながら、他の患者や病院関係者などもまんべんなく丁寧に描かれて行くんですが…。

 これはもう、僕自身の人生の波乱のせいでちょっと詳しいせいでもあるので、気になる人の方が少ないかもしれませんが、病棟と裁判所の描写がずさん!
 自殺とか暴力、揉め事を一番警戒しなきゃいけない閉鎖病棟で、簡単に屋上に出れちゃったり、金属バット使って遊んでたり、2階の窓が普通に開けれたり!
 裁判所でも傍聴客と証人が事前にバッタリ会たりと「この施設の安全管理大丈夫?」と思う描写が多数。

 実際、物語の芯になる事件も、全部悪役のせいみたいに描かれるんですが、そういう描写のせいで「いやいや、病院側の安全管理が根本の問題じゃん」と思ってしまいます。
 原作者は精神科医、病棟のロケも実際にそういう施設だった場所でされたそうなので、これがリアルならば、その「ずさんさ」に対しての問題定義がもう少しあった方が、逆にすんなり物語に入り込めるのではないかとモヤモヤ。

 更に、主人公が2度起こす殺人、被害者をしっかりとグロテスクに悪役として描き、キャッチの通り“優しさ”が動機ではあるのですが、僕個人は2回目の事件が起こった時に「またこの男は殺人という“暴力”を選んでしまったか」と落胆しました。

 病院側の「ずさんさ」だったり「被害者でも加害者でも、精神的に問題がある人間が裁判に立った時の弱さ」が描写されていれば、梶木が人を頼れずそういう行為に及んだのもまだ理解出来るんですが、なんか医師も看護師さんも、話が通じそうなので、もっと平和というか法治国家的な解決が出来たんではないかと思ってしまいます。

 ドラマ自体の描写は非常に繊細で、患者さんたちのキャスティングや演技は素晴らしかったし、特にラストの裁判になると「お辞儀した時に見えるヘアアクセサリー」だったり「証人が職業を答えるたった一言」だったりに、それ以上の説明が全くいらない、とてつもなく美しい感動が訪れるだけに、そこまでの“ご都合”にモヤモヤしていたところ…ラスト1シーン。
「ああ、これが描きたかったのか」と、全てのもやが晴れました。

 この映画は“医療”や“裁判”、“殺人の是非”では無く「“人間”の“再生”」を描く物語だったんだ!と。
 そうして振り返ると全ての“都合”はこのラストへ最短距離で走る為の“省略”であり、完璧な采配!と思った瞬間に映画が終わります。
 圧巻。素晴らしかったです。ちと重めですが「人間」に興味がある方は、是非劇場へ足をお運び下さい!生きる希望をもらえる素敵な作品でした。
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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23

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