‎話題のアニメ映画「音楽」にみる、本当の“表現の自由”【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 3月にある公演の脚本の執筆と来週に迫った朗読劇の稽古で猫の手も借りたい状況になっています。

 そのせいか最近SNS上で猫の動画とか写真ばかり目に入りますーーということに今気づきました。

 ……違うか。

 今週は鑑賞記です。

 引き続きご相談も受け付けておりますので、ぜひ。

 では始めましょう。
黒田勇樹
 大橋裕之原作、岩井澤健治監督のアニメ映画「音楽」を観てきました。
 この映画、とぼけた作画の不良3人がひょんなことからバンドを結成し、触ったこともない楽器で演奏を始めるという、まぁ、なんつーんでしょう?イントロダクションとしてはありがちなストーリーなんですが、そっからが、凄い!
 まるで学ばないし、まるで成長しようとしない!
 ひたすら、心の赴くままに、演奏と言っていいのかも憚られる、セッションをし続けるという、中々に気の狂った展開の作品。

 でも、だからというか、観客が

 「ああ、“音楽”って“衝動”なんだよな」ということを

 とてもすんなりと再確認させられる。

 不良たちの退屈な毎日に“音楽”という“衝動”が現れたことで、それまでと同じように描かれる退屈な毎日の陰に、ずっと“希望”とか“期待”とか“可能性”というものが顔を出し始める。

 絵も演技も、派手さがなく単調なのに、ずっとワクワクさせられる展開にグイグイと引きこまれて行きました。

 ちょっと残念だったのは、クライマックス前に、一度展開が「ドラマチック」になるんですが、今までずっと「日常に隠れたドラマ」という和食を楽しんでいたのに、突然〆にチーズとケチャップたっぷりかけたオムライスが出てきたような、味濃いめの演出になったこと。
 ま、原作があるものなのでこういう展開を変更するのは難しいと思いますが、もっとずっと、アイツらの“何も起こらない退屈な毎日”の先に、突然あのラストが訪れる様な、ギミックというかアイデアが欲しかった。
 お客さんに楽しんでもらう為にはあのタイミングでハラハラドキドキしたり驚いてもらうことは必須で、そこに予想を裏切るアイデアを入れるというのは非常にカロリーを使う作業。ついつい典型的な「ケチャップ演出」持ってきちゃいがちなんですが、少しだけそこまでの上品な後味が上書きされてしまい勿体ないと思いました。

 とはいえ!この作品が傑作であることに間違いはなく、それは、監督自身が「7年かけて4万枚作画した」というアニーメションに裏付けされる“衝動”の本質。
 7年先に公開する作品なんて「途中で新しい技術が出来るかもしれない」とか「社会の風潮が変わって公開できないかもしれない」とか、まともな神経じゃ出来ない作業ですよ!
 この人が描く“衝動”が、偽物であるワケがない!

 途中、窃盗や未成年の喫煙など、社会が変われば規制されてしまいそうな描写もみられるのですが、この映画は、観てもらえばわかりますが“そうじゃなきゃダメ”なんです!

 最近よく耳にする「表現の自由」という言葉、どうにも使われ方が間違ってきている気がします。
 本当の「表現の自由」とは、狂い咲きサンダーロードや、追悼のざわめき、そしてこの映画にこそ使われるべき言葉なのではないかと強く思いました。
 70分強と見やすい時間なので、音楽や映画がお好きな方、そして今“退屈”な方には是非、観て頂きたい1本でした。
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