【インタビュー】岩井秀人が語る『いきなり本読み!』の世界
劇作家・演出家で俳優の岩井秀人が2020年、「いきなり本読み!」というちょっと変なことを始めた。これは演劇の制作過程の中で、通常、稽古の最初に行われる、台本をみんなで読む「本読み」を人前でやってしまおうというもの。その最新回が12月25日に東京国際フォーラム ホール Cで松たか子、神木隆之介、後藤剛範、大倉孝二という豪華なメンバーを集めて開催される。なぜこんなことを始めたのか? そもそも「いきなり本読み!」とは? 岩井に聞く。
今年、『いきなり本読み!』というイベントをスタートさせた岩井秀人(撮影・蔦野裕)
俳優たちが初見の台本の読み合わせをお客さんの前で“いきなり”する
『いきなり本読み!』は「集まった俳優たちが、それまで読んだこともない台本の読み合わせを客前でする」という文字通りのもの。俳優には演目を事前に知らせず、当日ステージ上で台本を渡し、その場で岩井が配役し演出していく。まず、なぜこれを始めようと?
「理由はいろいろあるんですが、僕は他の劇作家や作家のようにどんどん新作を作って公演を打っていくというラインで勝負するのはやりたくないと思っています。あと、商業演劇の場へ進んでいって、作・演出を続けていく、というのもやりたいことではないんです。でも再演だけを続けていくのも窮屈だとはずっと思っていて、だから別の何かを探していたんです。そんなことを考えている中で、2019年の暮れに松尾スズキさんが作・演出の『キレイー神様と待ち合わせした女―』に出演したんですが、この作品は20年くらい前に見た時から凄まじく思い入れの強い作品だったのでプレッシャーが凄かったんです。それで事前に、今まで僕がやっていたワークショップに参加してくれていた俳優たちを集めて、『キレイ』の本読みをやったんです。それは彼らにも勉強になると思いましたし。
僕は“ジュッテン”という役をやったんですが、本読みではほかの人にもその役をやってもらった。そこにはキレイという作品をよく知っている根本宗子さんにも来てもらって、いろいろ教えてもらったりもしました。ジュッテン以外にもいろいろな役をいろいろな俳優にやってもらったんですが、たまたま見学に来ていらしていた作家の西加奈子さんが“めちゃくちゃ面白かった”と言ってくれて。
それは台本が面白いということもあったんですが、それが本読みというもので伝わるんだという発見と、俳優が初めて台本を読むときにこんなことができるんだということ、そして同じシーンでも配役が変わるだけでこんなに見え方が変わるのか、といったことでした。その時は僕がちょっとした演出もつけたりしていたんですが、それによっていろいろ変化するさまも面白かったということでした。
この西さんが面白かったと言ってくれたところは、僕たち俳優も常に稽古場で感じていたことです。“正直、本番より稽古のほうが楽しい”って答える俳優さんは多いはずです。でも、結局俳優の仕事は“本番では、どうする?”ってことを決めなくちゃいけないわけだから、そういうところを楽しんでいる余裕はないんです。結局、稽古場でいくら面白くても、それらのほとんどを捨てて、本番用の再現可能な表現を繰り返していくしかなくなるわけです。
そんなことを思いながら、キレイの稽古場に入ったんですけど、やっぱり稽古場はめちゃめちゃな面白さなわけです。皆川猿時さん、阿部サダヲさん、宮崎吐夢さん、荒川良々さんもいた。稽古場で死ぬほど笑って、本番に入る。本番ではお客さんは笑っているんだけど、稽古場での俳優の発想が「生まれた瞬間」というのはその100倍面白いわけです。で、本番というのはとにかく繰り返すというのが仕事になるので、お客さんは面白がっても、舞台上は全然面白くなかったりする。なんならもう、ほかのことを考えていたりするんで。
そう思うとあっち(本読み)のほうが絶対に面白い気がするな、と思ったんです。もちろん、違う種類の面白さだとは思うんですけど。それで試しに1回やってみようと思って、出演者の方々に声をかけてみたら結構みんな興味を示してくれて、兄弟の役をやっていた神木隆之介君とはさらに突っ込んだ話をして、『いきなり本読み!』のやり方なんかも考えました。なので神木君は共同プロデューサーみたいなところはあるんですよね。
それで2人で日程も決めて、今年の2月2日に大阪でキレイは千秋楽を迎えたんですが、翌日に浅草の東洋館で第1回の『いきなり本読み!』をやりました。そうしたら爆発的に面白かった。僕の台本でやったんですが、台本の面白さも伝わったし、主旨は俳優や演出の変化を見せるということなので、台本はあえて最後までやらなかったんです。“この後どうなるんだろう?”という状態で終わったらすごく台本が売れました(笑)。なので最近は“台本売るためにやってるんで、皆さん買ってください”ってあえて言ってます(笑)。
見てもらったお客さんからは“楽しい”にプラス“俳優さんってマジでこんなことできちゃうの?”という感想が多かった。それが僕が求めていたものというか…。
演劇作品といわれるものは、当たり前なんですけど見る側はできあがった“塊(かたまり)”として見る。こっちも塊にするために稽古をしている。だけど、そもそも俳優と台本と演出はばらばらなところから、台本に向かい、それを立体にしていくという作業なんですが、それを目の前で見せることで、ただ本番を見るということ自体にも別の視点が持てるようになって楽しみ方が増えるんじゃないかと思うんです。それは演劇に限らずテレビドラマも含めてですね」