映画「あの頃。」にみる「アイドルと青春と人生」【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
こんにちは、黒田勇樹です。
演出をさせていただく舞台「白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます」の稽古がついに始まりました。
実は「演出のみ」の舞台は初めてでして、いつもと違った緊張感があります。
今回もいい座組に恵まれて、いい作品になりそうな気がします。
ご興味のある方はぜひ!
では今週も始めましょう。
最近では「愛がなんだ」の記憶が新しい、今泉力哉監督、松坂桃李くん主演の映画「あの頃。」を観てきました。
2000年代前半の大阪を舞台に始まる「アイドルファン」たちの青春模様を描いた作品。
まず特筆すべきは、この「アイドル」が「ハロプロ縛り」!
しかも、モー娘。あやや、ミキティと僕らの青春真っただ中の実在のアイドルが画角や解像度の違いをものともせず、当時の映像や音声などで登場しまくる。
もはや、失われつつある少年時代の聖域「CDショップ」や、友達の家の本棚のラインナップのディティールの細かさ!
筆者は、関東生まれなので若干「関西のノリ」で、わからない部分はあったのですが、こういう背景を眺めているだけでも、まさに「あの頃。」という作品を楽しむことが出来ました。
演出として「上手い」と思ったのは、音楽の使い方。アイドルソングが豊富に流れる設定の中で、いわゆる「BGM」にあたる部分は、全て「メロディがない」もの。リズム隊だけでジャズのセッションしている感じでしょうか?
「音楽」ってアニメ映画の「ボボボボボボボ」に近い感じ。
主人公がベーシストなので、ベースラインから始まる曲が多用され、アイドルソングは必ず、登場人物たちが映像を見たりCDを聞いたり、ライブに行ったり「実際に流れている」ところでしか聞こえてこず、激しい場面では「バンドの練習やライブ」の場面から始めてロック調の曲を流すので、非常に際立ちます
ストーリーの「上手さ」は“善悪”を描かなかったところ。
ちょっと自分の青春に話がそれますが、大好きなブルーハーツのトレイントレインの一節、「天国じゃないけど、かといって地獄でもない」「良いヤツばかりじゃないけど悪いヤツばかりでもない」を連想させる、そんな世界観で“人間”が描かれているのが非常に刺さりました。
“アイドル”も、ある時は「救い」、ある時は「逃げ場」、登場人物たちも「好きな所も嫌いな所もある人たち」で、あらゆる「あの頃」を否定も肯定もせず、ゆっくりと受け入れていく空気感。
「あれ?アイドル関係なくなってねぇ?」と、思うような人間ドラマが描かれる後半で「ここでかー!」ってアイドルの登場に、この映画が描こうとしていた「人間」と「アイドル」が凝縮されている気がして震えました。
あと、“当時のあやや役”を、全く違和感なく演じていた松浦亜弥さんにも震えました。
失った何かを、取り戻すのではなく「そっと思い出す」、そんな素敵な映画でした。
※【編集部注】黒田さんが見間違えるほどの再現度でしたが、実際は山﨑夢羽さんがあやや役を演じている。
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1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。
公式サイト:黒田運送(株)
Twitterアカウント:@yuukikuroda23