芳根京子 圧巻の演技力の根幹にある「自信の無さ」とは。最新主演作『Arc アーク』で容姿を変えずに100歳以上までを演じ切る

 21世紀を代表する世界的作家ケン・リュウの傑作短篇小説「円弧(アーク)」(ハヤカワ文庫刊)を、『愚行録』『蜜蜂と遠雷』の石川慶が映画化。“不老化処置”により若さを保ったまま100歳以上生きる主人公リナ役には『ファーストラヴ』の憑依的演技で見る者を圧倒した芳根京子。一人の女性の17歳から100歳以上を演じ切るという、かつてない難役に挑んだ思いを語る。

撮影・蔦野裕、ヘアメイク・尾曲いずみ、スタイリスト・藤本大輔(tas) 衣装協力・muller of yoshiokubo(03-3794-4037)、Lamie(03-6303-4206)

ありうる未来? “SF”の枠に留まらない壮大な世界観

「撮影現場のセットを見て、改めて、すごい世界観だなと思いました」と“人類が不老不死を手に入れた世界”を振り返る芳根京子。

「美術一つひとつが、とてもリアルに作られていて本当に未来を感じさせられました。リナが食べていた不思議な色のハンバーガーもそうですし(笑)。あの場面は撮影初日のシーンだったんですが、もう初日から美術のすごさを感じました」

 今回、芳根が演じるのは、人類で初めて永遠の命を得た女性・リナ。リナは19歳で人生の師となるエマ(寺島しのぶ)と出会い、プラスティネーションにより美しい状態で保存された遺体、〈ボディワークス〉を知る。やがてリナはエマの跡を継ぎ〈ボディワークス〉のスターアーティストとして成長していく。踊るような動きで遺体のポーズをデザインしていく〈ボディワークス〉を施すシーンは、それ自体が身体表現のアートのよう。

「プラスティネーションされる人体パーツを扱うシーンでは、とにかく壊さないようにと気を付けていました(笑)。〈ボディワークス〉のシーンは、私がこう動くとあちらがこう動く、ということを遺体役の方と話しながら一緒に練習させていただきました。私もこまめに練習していたんですが、あの遺体を演じているのがダンサーの方だったので、すごく心強かったです。いずれにせよ、死を演じるというのは本当に難しいことで、私よりも遺体役の方々のほうが大変だったと思います。今回の作品では改めて、一つの作品にはこんなにさまざまな、たくさんの人の力が必要なんだと実感しました」

 人体保存の〈プラスティネーション〉は現代にも存在する技術だが、物語ではその技術がやがて人体の老化を止めるまでに進化。リナは“永遠”を手に入れる人類最初の人となる…。しかし本作は、近未来を舞台にSF要素を用いながらも、生と死や老いといった、どの人間も見つめざるを得ない普遍的なテーマと向き合いながら、壮大な視点で“命”を見つめていく。

「ひと言で、どういうジャンルかと問われると難しい作品なんです(笑)。敢えて言うなら“石川慶監督作品”というジャンルというのが一番しっくりくるんですよね。ここまで見る人によって感じ方が違う作品もそうないのではと思うので、見ていただいた方に、どういう作品だと思ったかお伺いしたいです。

 SF的テーマそのものではなく、その世界観を通して命や人生を描く物語。

「石川監督が描く作品は、世界観がじんわり伝わってくるものが多い気がするのですが、本作も同じで、私も完成作を見終わって作品をかみしめているときに涙が出てきたんです。それでも24歳の私はまだ、この作品の全部を咀嚼しきれてはいないと思います。きっとこれからの人生の中で、私は定期的にこの作品を見返すのだろうと思っています」

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