徳井健太の菩薩目線 第108回 俺は麻雀界のヒールらしい。ヒーローがいないなら、雀卓一帯を焼け野原にするしかない。

 

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第108回目は、麻雀の世界で起こる「徳井論争」について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

「徳井さん……僕は、徳井さんの麻雀スタイル含めて好きなんで」

いつものように雀荘で興に乗じていると、先ほどからこちらをチラチラとうかがっていた40歳くらいの男性から声をかけられた。“僕は”。あまりに含みを持たせた言い方。違う卓から、わざわざ俺のところに来てまで伝えたかった言葉。だと考えると、心に引っかかる。“僕は”ってことは、彼は少数派なんだろう。引っかかって引っかかって、その後の麻雀は、ほとんど覚えていない。

身に覚えがある。なんでも、俺のいないところで麻雀のプロ、雀士たちが集まると、「徳井の戦法は是か非か? 認めていいのか?」といった“徳井論争”が起こるらしい。麻雀番組でたびたび共演する女性タレントから、直に聞いたことなので、本当らしい。恐れ多い。というか、“徳井論争”ってなんなんだよ。

「いろいろみんなで話すんですけど、最終的には徳井さんの麻雀も認めなきゃいけないんだっていう結論になります」(女性タレント)

……。複雑だよ。本当に論争じゃないか。最終的には認めなきゃいけない――ということは、ほとんどの人がアンチ徳井スタイルなわけで、冒頭の“僕は”の謎も解けてしまった。俺は、まったく自分のうかがい知らないところで麻雀界のヒールになっていたらしい。俺にエールをくれた先の男性は、隠れキリシタンだったんだ。

麻雀界のヒール。一体、俺は何をしでかしているのか。

麻雀に詳しくない人もいるだろうから、「徳井さんの麻雀も」がどういうものか、説明しておきたい。 

例えば、プロ野球選手の引退試合があるとする。その引退する選手の最後のバッターボックス。ピッチャーは直球勝負を貫き、気持ちよく バッターがバットを振れるよう、花道を演出する。よくある光景だ。

実は麻雀にも、そういった暗黙の了解や美学がある。せせこましいことや老獪なことは王道ではなく邪道と映る。しかし、俺はよこしまな道をフルスロットルで駆け抜け、勝利を掴みにいく。「そこでそれやる?」と思われても、アクセルを踏み込む。意図してやる以上に、嬉々としてやる。

先の引退試合の例で言うなら、現役最後のバッターボックス、その打席に対して俺は平気でフォークボールを投げるようなもの。その選手が、現役最後なんて知ったこっちゃない。こっちは現役。万が一打たれたら、防御率が上がってしまう。去りゆく人への花束よりも、現役の 1アウト。勝負である以上、現役最後の打席だろうが、勝ちにいかせていただく。俺は笑いながらフォークを投げ、空振りした引退選手は、マウンド上の外道を睨む。そして、俺は再び笑い返す。“徳井論争”が起きるのも、当然っちゃ当然かもしれない。外道の牌。自覚している。

プロ雀士、著名人、アマチュア、全国の雀士――幅広い分野の麻雀愛好家が集うオープントーナメント『麻雀最強戦』という最高峰の戦いがある。竹書房「近代麻雀」誌主催による麻雀のタイトル戦であり、1989年度から行われている由緒ある大会だ。優勝賞金300万円。副賞は一切ない。王者しか賞金を手にすることはできない。

“男子プロ因縁の血闘”“女流チャンピオン決戦”“タイトルホルダー頂上決戦”など、テーマごとに選ばれた雀士がブロックごとに戦い(全部で16ブロック)、その中からたった一人がファイナルトーナメントに進出する。選ばれし16名が4人×4卓に分かれ、以後、上位2名がノックダウン方式で最強の称号を目指す。ゾクゾクする。最高の晴れ舞台、俺は“著名人異能決戦”と題されたブロックに出場することになった。

 

A卓 松本圭世 福本伸行 加賀まりこ 宮内悠介

B卓 瀬川瑛子、徳井健太(平成ノブシコブシ)、佐藤哲夫(パンクブーブー)、近藤くみこ(ニッチェ)

 

腕が鳴る面子。何癖もある手練れを相手に、俺は暗黙の了解を破り続ける。結果、ファイナルトーナメント進出を果たした。素直に嬉しかった。

麻雀は勝負なんだ。勝つことができるなら、美学なんていくらでも捨ててしまったほうがいい。結果を残せば、「最終的には徳井さんの麻雀も認めなきゃいけないんだっていう結論になります」になる。偉そうなことは言えないけど、勝負ってどこを切っても、結局、残酷なんだ。

『麻雀最強戦』は、ABEMAで放送される。サイバーエージェントの藤田晋社長は、この大会を機に麻雀に目覚めたといい、2014年には著名人代表としてブロックを勝ち上がり、ファイナルを制覇してしまった。プロアマを含む、同年の参加者2700名の頂点に立ったのだ。お笑いに『M-1グランプリ』があるように、麻雀にも『麻雀最強戦』がある。

そんな大会に出られる可能性があるのだから、勝ちにいかないのはウソだ。踊るように打たなきゃいけない。ヒールには、ヒールの正義がある。

俺が『麻雀最強戦』のファイナルで、どう道を外れていくのか、ぜひ見ていただきたい。麻雀は部活動じゃない。甲子園は教育的な側面があるだろうから、正々堂々さが問われる。でも、プロは違う。悪名だろうが、轟かせたら勝ちだ。そんな大悪党を懲らしめるヒーローがいるから善悪の均衡は約束される。ヒーローがいないなら、雀卓一帯を焼け野原にするしかない。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw