徳井健太の菩薩目線 第110回 アベプラで話した“ギャラ飲み沼”から抜け出せなくなった女性と、アキラ100%のロケを見て感じた「稼ぐこと」

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第110回目は、稼ぐことについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

半年ほど前。

MCを小籔(千豊)さんが担当する回の『ABEMA Prime』に出演した。テーマの一つに、ギャラ飲み(飲み会の主催者が参加者の女性に対してギャラを支払う飲み会)の沼から抜け出せない女性の実情――というものがあった。

匿名かつ顔出しをせずに、一人の若い女性が語った内容は、ギャラ飲みアプリで出会った男性から“襲われた”“お金をだまし取られた”“子どもを身ごもってしまった”、そして“中絶する費用もギャラ飲みで稼いだ”といった赤裸々な言葉の数々だった。

気になることだらけ。俺は次のように質問した。

「大変だったと思うんだけど、それでも今もギャラ飲みをやっているって言ってるわけじゃん。なんで今もやってるの?」

彼女の答えは、極めてシンプルだった。

『やめられないんです』

話を聞くと、今もギャラ飲みアプリを使って、素性のわからない男性と会い、「この前会った人から“絶対に儲かる FX の勝ち方”みたいな教材を買った」と教えてくれた。

今までギャラ飲みで損した分を取り返す。そのために、ギャラ飲みアプリで出会った男性から“絶対に儲かる FX の勝ち方”を購入したそうだ。絶望が、口をあんぐりとあけている。

彼女の真っ赤で素っ裸の告白は、まだ止まらない。現在、借金が100万円ほどあるらしい。そのことを親に伝えることができず、自分で返済するためにギャラ飲みを駆使する……「お金を返すためにはギャラみをし続けるしかない」と主張していた。ウシジマくんに出てくるようなキャラクターが、本当に実在するのだと驚いた。 

小籔さんは、「俺が親だったらそんなことも言ってくれない娘に育ってしまったんだなと思って悲しい 」と言っていた。俺もそう思う。たった100万ぐらいでギャラ飲みの自縄自縛から逃れられないこと、親に言えないことの方が悲しい。

一回飲んだだけで数万円をもらえるギャラ飲み。雪だるま式に転がって、ひと月でウン十万も稼げるようになり、20代も半ばを超えたときに一体何が残っているんだろう。生活レベルを下げることができる? 何ら手に職がつかないことに不安はない? そのまま転落していったとき、誰が助けてくれる? 悪とはなんぞや。

そんなことをぼんやり考えていると、数日後、『それって実際どうなの課』でアキラ100%が 圧接工のバイトを三日間やるという体験ロケをしていた。

俺も重機(車両系建設機械)の免許を取得した手前、ガテン系の仕事に関心が高い。食い入るように番組を見ていると、アキラ100%の顔には何度も火花が飛んでいた。この手のロケは、素人が体験こそさせてもらうものの現場からすれば邪魔者以外の何者でもない。にもかかわらず、番組として成立させつつ、芸人として笑いもほどほどに取らなければいけない。失礼を承知で前に出て行かなければならない。そういったジレンマすらも圧接させなければいけない彼の姿からは煙が出ていた。

アキラ100%が体験した圧接工のバイトは、 1日1万5000円、3日間で45000円を稼いでいた。

沼から抜け出せない彼女が口にしていた、自分のギャラ飲みの額は5万円だと言っていた。

深い。諸行無常だ。同じお金、どんな稼ぎ方をしても、お金はお金。使えば、すべて一緒だ。

仮に5万円のお金を落としたとする。一生懸命バイトをして貯めた5万円とたった一回飲んだだけで手にする5万円。バックの中に5万円がないと気付いたときの落胆は、雲泥の差だろう。そして、その5万円を拾った人は、どちらの事情も知ったことではない。世の中は、そんなものだ。皆、拾う側になりたいと願う。

ただただ騒いで女性と乳繰り合いたい大人と、ただただラクして稼ぎたいだけの若い女性たち。何の良識も教養も必要としない世界が広がっている。良識のある大人、おじさんが減ってしまったことも、こういった稼ぎ方に拍車をかけてしまったのかもしれない。

粋な大人が減ったんだろうなと思う。どこまでも効率を求めると、粋がすり減っていく。お金を稼ぐことも、自分自身のスキルを上げることも、誰かから信用を得ることも、すべてそれなりに時間がかかる。そういったものに効率なんて言葉が入る余地はない。効率、効率、なんて言っていると、いつの間にか沼から抜け出せなくなってしまうんじゃないだろうか。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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