「日本の俳優は“そんなことできない”と言わないの?」小野田少尉青年期役・遠藤雄弥がフランス人監督から聞かれたこと
「俳優のキャリアの中で、一生に一度あるかないかの機会だと思いました」と振り返る俳優・遠藤雄弥。太平洋戦争後、約30年目に生還した小野田旧陸軍少尉の実話をもとに描く映画『ONODA 一万夜を越えて』で、主人公・小野田の青年期を演じた遠藤が、フランス人監督との“壮大な冒険”を語る!
13歳の時に映画『ジュブナイル』(山崎貴監督)でデビューを果たして以降、キャリアを重ねてきた遠藤雄弥。本作との運命的な出会いとは。
「フランス人のアルチュール・アラリというクリエイターが、小野田寛郎さんをモチーフにした映画を作るために日本人のキャスティングをしていて、アラリ監督が実際に来日してオーディションがあると聞き、こんな機会はなかなか無いと思い受けさせていただきました」
初めて対面したアラリ監督の様子は?
「オーディションで芝居をする前に少しお話させていただいたんですが、そのときはあまり話が盛り上がらず正直、微妙な感じでした(笑)。でも芝居が始まると、監督がものすごい集中力で僕の芝居を見てくださって濃厚なディスカッションをすることができました。僕の力を120%引き出してくださる方で、オーディションを受けながら、この方と一緒に映画を作りたいと心底、思っていました」
一方のアラリ監督も、遠藤に小野田青年をはっきりと見出していた。オーディションで遠藤の芝居を見て、新たな発見をもたらしてくれたと絶賛したという。
「僕も、オーディションを終えて“これは落ちたな”という感触はなかったです。これまで何千回とオーディションを受けてきましたから、ダメだったかどうか何となく分かるんです(笑)。実際に役を頂き、アラリ監督からも“まさに小野田青年だ”とおっしゃっていただいて、本当にうれしかったです。僕がどうというより、役がハマってくれたんだ、と(笑)。本当に運がよかったと思います」
映画では、陸軍上官の谷口(イッセー尾形)から秘密戦の命を受けルバング島に着任するが、味方を次々と失い、わずかな隊員とともにジャングルでの潜伏生活を続けていくまでの青年期を演じる。
「僕が演じた時期の小野田は、父親との確執や谷口からの啓蒙、生き残った仲間たちとのつながりなど他者との関わりが多くを占めていて、その中で自分自身の葛藤や変化を表現していくという芝居が多かったんです。実際に現場では“いろいろな感情を探していこう”という監督の演出方法のもと、共演者の方々との芝居のなかで、いろいろな感情が生まれ、それを表現することができました」
谷口から密命を受け、再び胸に抱いた熱意と誇り。島へ着任するや戦場の現実を目の当たりにした戸惑いと不安。味方が壊滅し、わずかな仲間とともにジャングルに潜伏するうち、研ぎ澄まされ確固たるものとなっていく任務遂行への意志…。夢破れ挫折感を抱えていた繊細な青年から、秘密作戦の命令を全うすることにすべてを捧げる生粋の士官兵と変貌していく姿を迫真の表情で演じ切る。
「映画の登場人物としての小野田青年を演じるうえで僕が意識していたのが、彼の中のコンプレックスでした。高所恐怖症のために航空兵になれなかったという挫折感をずっと抱えていた彼が、上官の谷口から“君は特別なんだよ”と教えられ、心酔し、絶対に任務を成功させるんだという強い使命感を持つようになる。その根本にあるコンプレックス、人間らしさを大事に演じていました」
戦争は終わっているのではないか…疑念と不安が湧き上がるたびに、より強固になっていく小野田の使命感。
「彼自身の中にも、やっぱり戦争は終わっているんじゃないかという不安はあったと思います。でもそれを受け入れてしまったら、すべてが終わってしまう。それが、秘密作戦の任務を絶対に成功させるんだという思いにつながっていったんじゃないか…。そんな複雑な心情を、監督や共演者たちと一緒に探す旅でもありました」
撮影開始前、アラリ監督からメールをもらったという。
「今回は、本当に大きな冒険になる。一緒にこの大冒険を楽しみましょう、というメッセージをいただきました。物理的に、カンボジアという場所での撮影自体も冒険でしたけど(笑)、全員で登場人物たちのリアルな感情をさがしていこうという、役者としての冒険でもありました。アラリ監督に、壮大な冒険に連れて行ってもらった2カ月間でした」