衆院選で考える「賢い政府」【鈴木寛の「REIWA飛耳長目録」第11回】

 

 先の衆院選は自民党が単独過半数を確保したものの、解散前より議席を17減らし261。対する野党第一党の立憲民主党にはチャンスのはずでしたが、こちらも109から96に減らすという「痛み分け」でした。間隙を突くように維新が4倍近い41に躍進。ホームグラウンドの大阪では小選挙区で自民党候補に全勝、全国各地にも比例で一定数の当選者を出しました。

 今回の総選挙、有権者が自民党にも野党にも一定の変化を求めたと言えるでしょう。無党派層が特に多い東京では維新が比例で85万票を獲得しました。これは2年前の参院選東京選挙区では54万票、昨年の都知事選では61万票でしたから上積みです。夏の都議選で底力を見せた小池知事、都民ファーストの会が今回参戦していれば、維新も順調ではなかったでしょうが、本質的な話は、「第三極」に支持が集まるということは、それだけ老舗の政党に対してドライに見ている方が多く、新しい受け皿を渇望していると言えるでしょう。

 さて選挙が終われば政治は法律を作り、行政を動かしていくことになります。有権者の、これまでの政治に対する不満は、ある意味、行政のあり方にも変化を求めている側面があるでしょう。特にコロナで国も地方自治体も未曾有の財政出動をしたあとで、経済は傷ついて税収の回復には時間がかかりますし、この冬の第6波にもどう備えるか、しかし経済は再生しなければならないという、トレードオフ、コンフリクトをこれまでになく詰め込んだ状況に直面しています。

 そもそもコロナになる前から日本は30年間、経済が成長しませんでした。行政府、国会と立場を変えながらも現場で苦闘し続けたつもりですが、政策づくりが本当に難しくなりました。政治や行政の現場ではこれまでにない発想力が必要だと痛感します。そしてその発想力の源となるのが、昔ながらの凝り固まった制度や経験則に囚われないこと、幅広い視野です。

 このほど『ワイズガバメント 日本の政治過程と行財政システム』(中央経済社)という新刊を研究者や実務経験者の同志と上梓しました。元会計検査院長の重松博之先生、そして経営学の大家、野中郁次郎先生には力強くお導きいただきました。野中先生といえば不朽の名著『失敗の本質』で経営組織論の観点から旧日本軍の敗戦した要因を分析したことが、1980年代当時は実に斬新でした。そして今回は令和の時代の「賢い政府」はどうあるべきか。政治・行政システムの問題点や動かし方を、野中先生をはじめ、皆さまと論じています。やや難解かもしれませんが、日々の政局の底流にある本質的な問題を見通す視点を養うには、おすすめです。

 

東京大学・慶應義塾大学教授
鈴木寛

1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。

山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。

2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。

日本でいち早く、アクティブ・ラーニングの導入を推進。